第一事務所通信 Vol.05 ━ 「株式の分散」への対処について(その2) ━

「株式の分散」への対処について その2

【はじめに(前回のまとめ)】

 

前号では、中小企業に「株式の分散」が生じていて、

連絡が取れない株主がいる。

譲渡に応じない株主がいる。

等があると、特にMAの場面で支障をきたす恐れがあること、

 

上記➊への対応としての、

「所在不明株主の株式売却制度」

についてご説明しました。

 

本号からは、上記➋(及び➊)への対応として、いわゆる「スクイーズ・アウト(締め出し)」の手法についてご説明します。

 

 

【スクイーズ・アウト】

 

「スクイーズ・アウト(締め出し)」とは、保有株式数の少ない株主(少数株主)の保有する株式を、その意向に関係なく失わせて、少数株主を株主でなくすることをいいます。

 

スクイーズ・アウトの手法には、大きく分けて、

㈠株主総会の決議を要する方法

㈡株主総会の決議を要しない方法

があります。

 

本号では、

㈠の代表的な手法である「株式併合」を用いる方法

次号では、

㈡の手法である「特別支配株主の売渡請求」

についてご説明します。

 

 

【株式併合】

 

株式併合とは、例えば、

・2株を1株

・3株を2株

のように、一定の割合をもって、複数の株式を少数の株式にまとめることです。

何株を何株にまとめるかについて、法律上の制限はありません。

 

では、次のような場面で株式併合を行うとどうなるでしょうか。

 

例)(★1)

<株式会社X>

・発行済株式総数

100株

・株主:保有株式数

A:80株、B:10株、C:10株

 

上記のような状態で、

・株式併合:20株を1株に併合

を行うと、

・株式併合後の発行済株式総数

4株

・株式併合後の株主→保有株式数

A:80株÷20株→4株

B:10株÷20株→0.5株

C:10株÷20株→0.5株

となります。

 

会社法上1株未満の端数には、株主としての権利がないため、B、Cは株主としての権利を失います。

一方、Aは、株式併合後の発行済株式の全部である4株を保有するに至り、株式会社Xの100%株主となります。

 

B、Cは、Aによって株式会社Xから追い出された格好です。

 

このように、株式併合は、大株主(A)が少数株主(B、C)の株式を強制的にはく奪することに利用可能です。

 

冒頭でもご説明のとおり、このような使い方を、一般に「スクイーズ・アウト(締め出し)」と呼んでいます。

 

このようなスクイーズ・アウト目的の株式併合を、本シリーズのテーマである、中小企業の株式分散とMAに引き付けるならば、買い手が対象会社の全株を取得したいという意向であるにもかかわらず、対象会社の株主中に、➊➋のような株主がいる場合などに、MAに先だってこれを実施することにより、経営陣(★1の例でいうA)が対象会社の100%株主となることで、買い手の全株取得の希望を実現して、譲渡価額の下落や買い手の買収意欲の減退を防ぐことに役立てられます。

 

以下、株式併合の手続についてご説明します。

なお、本項は、株式併合の実施会社は、下記のような会社(一般的な中小企業)であることを想定して記載しています。

・スクイーズ・アウト目的の株式併合である。(株式併合の結果1株未満の端数が発生する。)

・株式の譲渡制限がある。

・単元株式数の定めがない。

・株券を発行する旨の定めがない。

・取締役会がある。

・種類株式を発行していない。

・株主総会の決議要件について特段の定款規定がない。

 

 

【0.前提】

 

後述のように、株式併合を行うには、株主総会の特別決議が必要です。

従って、前提として確実に特別決議を可決できるだけの議決権を確保しておく必要があります。

 

確保すべき議決権は、総株主の議決権の3分の2以上です。

1人で3分の2以上のほか、他の株主と合計で3分の2以上でも構いませんので、株式併合への賛成派を議決権ベースで3分の2以上確保することが必要です。

 

 

【1.取締役会】

 

【0.前提】が満たされていることを前提に、取締役会を開催します。

 

会社の業務執行の決定機関として、株式併合を実施する旨の意思決定を行います。

また、この取締役会に於いて、株式併合について決議する株主総会の招集を決定します。

 

 

【2.事前開示】

 

株主に対して、株式併合についての重要事項を開示する手続きです。

会社の本店に、一定の事項を記載した書類(事前開示書類)を備置きします。

株主から事前開示書類について、「見たい」や「写しが欲しい」との申し出があったら対応します。

 

事前開示は、

株主総会の日の2週間前

株主への通知又は公告

のいずれか早い日から

・株式併合の効力発生日から6か月を経過する日まで

行う必要があります。

 

事前開示書類に記載する必要がある事項は、

株式併合の割合、効力発生日、株式併合後の発行可能株式総数

の他、

株式併合の結果株主に交付されることが見込まれる金銭の額

などです。

 

この事前開示書類を見ることで、株主は、株式併合の結果、

自分が何株を保有するようになるか?(ならないか?)

自分はいくら金銭を受け取るか?

などを認識して、後述の株式買取請求を行うかどうかを決めることが可能となります。

 

 

【3.株主に対する通知(又は公告)】

 

株主に対して、株式併合を行うことを周知する手続きです。

株式併合の効力発生日の20日前に行う必要があります。

 

一定の事項を記載した手紙(通知書)を株主に対して送付します。

通知書は、後述の株主総会の招集通知と一緒に送付しても差し支えありません。

 

この通知は、公告で代えることも可能です。

株主が多数の場合は、公告による方が会社の負担が少ないかもしれません。

 

 

【4.株主総会の招集】

 

株主総会の招集通知を発送します。

招集通知の発送期限は、株主総会の会日の1週間前です。

 

ただし、【3.株主に対する通知(又は公告)】を通知書で行う場合で、通知書を株主総会の招集通知に同封する場合には、

・株主総会の会日の1週間前(招集通知の発送期限)

・株式併合の効力発生日の20日前(株主に対する通知の発送期限)

同時に満たす日程で発送する必要があります。

 

 

【5.株主総会】

 

株式併合を承認するには、株主総会の特別決議が必要です。

決議要件は、下記の両方が満たされることです。

・議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席すること。

・出席した株主の議決権の3分の2以上賛成すること。

 

決議すべき事項は、

併合の割合(何株を何株に併合するか)

効力発生日

・効力発生日における発行可能株式総数

です。

 

また、取締役は、この株主総会において、株式併合を行うことが必要な理由を説明しなければなりません。

 

 

【6.効力発生日】

 

【5.株主総会の決議】で決議した効力発生日が到来すると、株式併合の効力が発生します。

 

これにより、★1の例でいえば、Aは4株の株主となります。

一方、B、Cの保有する株式は0.5株と1株未満となりますので、B、Cは株主としての権利を失います。

 

少数株主の締め出し(=B、Cを株主でなくすること)は、ここで一応完了します。

 

 

【7.事後開示】

 

株式併合の顛末を開示する手続きです。

一定の事項を記載した書面(事後開示書面)を、会社の本店に備え置きます。

株式併合の効力発生日後遅滞なく開始し、6か月間継続する必要があります。

 

 

【8.登記申請】

 

株式併合により、会社の発行済株式総数・発行可能株式総数が変更しますので、商業登記簿謄本を書き換えるために登記を申請します。

登記申請の期限は、効力発生日から2週間以内です。

 

 

【9.端数処理】

 

上記【6.効力発生日】に1株未満となった株式(B、Cの各0.5株)は、会社法の端数処理の規定に従って売却処理されます。

 

売却は、端数の合計について実施されます。

★1の例では、

「B:0.5株+C:0.5株=1.0株」

1.0株が売却の対象です。

 

また、

「甲:0.7株+乙:0.5株+丙:0.3株=1.5株」(★2)

のように、合算後の端数の合計にさらに1株未満の端数が生じる場合は、当該端数は切り捨てられ売却の対象にはなりません。

★2の例では、0.5株の端数切捨てを行った後の1.0株が売却の対象となります。

 

売却は、競売によって行うのが原則ですが、非上場株式のような市場価額のない株式の場合、裁判所の許可を得て、競売以外の方法によって売却することも可能です。(会社がこの許可の申立てを行うには、取締役全員の同意が必要です。)

 

売却が競売以外の方法による場合、会社が買主となることも可能です。(会社が買主となるには取締役会の決議が必要です。)

 

売却代金は、各人にその端数の比率で按分されます。

 

 

【10.株主の保護】

 

ここまで見てきたように、株式併合は、少数株主の株主権を強制的に奪うことが可能な強力な手続きです。

従って、会社法上下記のような株主保護が定められています。

 

⑴株式併合をやめることの請求

株主は、株式併合が法令又は定款に違反する場合で、株主が不利益を受ける恐れがある場合は、株式併合の効力発生までの間、会社に対して株式併合をやめることを請求することができます。

 

⑵反対株主の買取請求

端数の対価の金額について株主に不満がある場合に、株主側から金額について争うための手続です。

1株未満の端数が発生するような株式併合が行われる場合に、これに反対の株主は、

・【5.株主総会】に先立って会社に対して反対の意思を通知したこと。

・【5.株主総会】に出席して株式併合に反対したこと。

を要件として、自分の持っている株式のうち株式併合により1株未満の端数となる部分全部を買い取るよう、会社に請求(株式買取請求)することができます。

③請求することができる期間は、株式併合の効力発生日20日前から効力発生日の前日までです。

④買取請求があった場合、一義的には会社と反対株主の協議により、端数の対価の金額を決定します。効力発生日から30日以内に協議が整わない場合、反対株主又は会社は、裁判所に対して価格決定の申立てをすることができます。

 

⑶決議取消しの訴え

株主総会の招集手続きや決議の方法が法令に違反していたり、特別利害関係者が議決権行使したことにより著しく不当な決議がなされたような場合は、決議取消しの訴えの対象となります。

 

 

【まとめ】

 

以上、スクイーズ・アウトを目的とする株式併合の手続きについてご説明しました。

 

MAの前提として実施することを想定した場合に、株式の譲渡に反対している少数株主を排除するために本手続を行うとすれば、経営陣(大株主)と少数株主の対立が顕在化することは必至です。

 

従って、

・法定の手続を漏れなく実施すること。

・端数の買取金額は適正な価額とすること。

・争いになった場合の対応を検討しておくこと。

などが重要です。

 

いずれも、手続き実施前の段階から専門家の関与を受けるべきでしょう。

 

 

【ご案内】

 

今回は、「『株式の分散』への対処について」の第2回目として、スクイーズ・アウト目的の株式併合についてご説明しました。

次回は、スクイーズ・アウトの手法中株主総会の決議を要しない手続きである「特別支配株主の売渡請求」についてご説明します。

 

当事務所では、株式の分散問題への対応の他、MAに関連して、

・契約書や各種書面の作成

・法務のアドバイザリー

・登記

など各種業務のご相談・ご依頼を承っております。

 

自社・関与先企業様についてのご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

 

司法書士法人第一事務所

司法書士 神沼 博充

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神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
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