【プラス+2019年春号 №36(2)】40年ぶりの相続の法改正、 知っておきたい5つのポイント 工藤皓也(第一司法書士事務所)

工藤皓也

司法書士法人 第一司法書士事務所 司法書士

 

2019年に1月から2020年にかけて相続に関する法律が大きく変わります。約40年ぶりという大改正。事前に知っておきたいポイントを解説いたします。

 

自筆の遺言書

自分が亡くなった後。財産をどのように配分するか。意思を明確にする有効な方法が遺言書です。遺言書の作成には2種類があります。公証役場の公証人に作成してもらう「公正証書遺言書」と、自分で書く「自筆証書遺言」です。最近は自分で書く人が増えてきました。ところがこの自筆証書遺言は作成や改正の要件が厳格で、書き方に不備があると無効になる場合もあります。そこで要件を緩和し、作りやすくしようというのが今回の改正内容になります。

これまでのルールでは自筆証書遺言は遺言を書く人が全文を手書きし、作成した日付を書いて署名押印すると決められていました。そんなに難しいことなのと思うかもしれません。しかし、例えば不動産については、登記事項証明書の通りに記入するなど書き方には細かな注意が必要になります。同様に預貯金や証券類、自宅にある高額な品物など全ての財産について詳しく特定できるよう書いてみるとかなりの文字量になります。

もし、間違っても訂正はできます。訂正する時にも細かな方式があります。改正によって自筆の遺言書と一緒に、パソコンで作った財産目録や預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付することが認められるようになりました。自筆で「別紙目録の財産を誰々に相続させる」と書けば財産も特定できるため、手書きが必要な文字量が減ります。ただし、目録の全ページに署名押印する必要があります。財産目録の作成は本人でなくてもよく、パソコン操作が得意な身内などに作ってもらうこともできます。

 

遺言書を法務局が保管

これまで自筆証書遺言は、遺言者が亡くなるまで本人が保管していることが多く、書いたものをなくしたり、その存在に気づかれないといった事態が起こっていました。誰かが偽造したり書き換えたりするリスクもあり、真正をめぐって相続人の間で争いが生じることもありました。こうした問題を背景に、自筆証書遺言を公的機関が保管する仕組みが作られることになりました。

具体的には「総務大臣が指定する法務局」で保管することが決まっています。ただ、どこの法務局が指定されるか、また保管にかかる手数料などは明らかになっていません。手続きには遺言者本人が窓口に行って申請し、所定の書類を提出。本人確認を経て受理されます。遺言書は原本と画像データで保管され、全国の法務局で情報を共有します。これにより遺言者が亡くなった時に相続人が法務局に問い合わせをすると、自筆証書遺言の保管の有無やその内容を知ることができるようになります。相続人が複数の場合、そのうち1人が遺言内容の照会を行うと、他の相続人にも遺言書の存在を伝える通知が送られ「知らないうちに遺産分けが終わっていた」と言うことも防げるようになりました。

また従来は、遺言者が亡くなった時に家庭裁判所で「検認手続き」を受ける必要がありましたが、法務局で保管していた自筆証書遺言に限り、この手続きも不要になります。画期的な改正といえます。一方で注意点もあります。法務局が預かる時、書き方に不備がないか、チェックする体制が整えられるかどうかは不透明です。不備があっても受理される可能性があり、書く時の内容精査は不可欠です。

 

預貯金の仮払いが可能に

預貯金を預けている名義人の死亡を金融機関が知ると、その口座は凍結されてしまいます。この凍結を解除し、預貯金を払い戻すためには、相続人全員が押印した書類や印鑑証明書などを提出する必要がありました。これは、預貯金を含め資産を全て「遺産分割協議と呼ばれる相続人全員の話し合いを経て分けなければならない」と言うルールに則ったものです。

配偶者や子や通帳やカードを持っていても、自由にお金をおろせなくなっていたのです。そのために生じていたが、「死亡した夫名義の口座で生活費を管理している妻が貯金はおろせない」、「葬儀費用を支払えない」、「預貯金があるのに債務の弁済ができない」といった事態が発生していました。

これを救済すべく、上限を設けて一部の相続人が単独でも預貯金をおろせるようになります。上限額は「相続開始時の預貯金の3分の1 ×法定相続分」。いち金融機関あたり150万円までと決められています。

 

相続人以外の貢献も配慮に

2019年7月から、息子の妻など相続の権利を持たない人が、亡くなった人に献身的に尽くしていた場合、相続人に対してお金を請求できるようになります。従来も亡くなった人の仕事を手伝ったり、介護をしていた家族が少し多めに相続できる「寄与分制度」がありましたが、制度の対象は配偶者や子などの相続人に限定されていました。子の配偶者は対象外。そうした場合にも請求できる仕組みを整えたのです。

ではどのぐらい「尽くす」と請求可能になるのか。参考になるのが、寄与分制度で、「多めに相続できる」ケースです。判例では「数ヶ月間ヘルパーに頼まず24時間つきっきり」など一般的な介護のイメージとは隔たりがあることは知っておきたいところです。改正の1つの狙いは、相続人ではない人の貢献を配慮すること。実際によくあるのが、夫が亡くなった後も妻が義理の親名義の家に住み、親の介護をしているケースです。改正によって介護の貢献分を金銭面で配慮する方法ができたことになります。

しかし、相続人に対して不動産を請求することまではできません。妻は住む家を失う恐れが残ります。親が遺言状を書くなど、対策を講じることが必要です。

 

配偶者の居住権を新設

夫婦で夫名義の家に暮らしていて、夫が亡くなった場合。妻がその家に住み続けるには原則として自宅を相続する必要があります。子供や夫の兄弟など、他の相続人が同意すれば、問題ありません。しかし、自宅も含めた財産を「法律通りに分けてほしい」と要求された場合は、妻はそれを受け入れるしかありません。

相続財産の中でも不動産は高額であることが多く、妻が相続するとそれだけで法定相続分を超え、他の相続人からそれ以上の財産取得を反対される恐れがあります。つまり、自宅を相続したために預貯金を相続できず、生活に困ると言う事態が発生していたのです。この対策として作られたのが「配偶者居住権」。配偶者が死ぬまで無償で自宅に住み続けられる権利です。権利ではありますが相続財産として金額に換算され、配偶者居住権の財産価値は所有者より小さいため、他の資産を取得できる可能性が広がります。

この改正は子にとってメリットがないように思いますが、母が亡くなった時の「二次相続」までを見越した節税に役立つ可能性があります。「配偶者短期居住権」も新設されます。自宅を誰が相続するのか。その話し合いが決まるまで、配偶者はそのまま住み続けていたいと言う権利です。遺産分割の話し合いが早期にまとまった場合でも、相続開始から6カ月間は保証されます。

 

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