行政書士 松本奈々絵
家族信託とは
家族信託とは、家族が行う財産管理の一手法です。不動産など資産を持つ人が、ご自分の老後の生活などのために保有する資産を信頼できる家族に託し、管理や処分をまかせるしくみです。家族信託を使う人は80歳代が多い印象です。自宅を所有していたり、アパート経営をしているといった不動産の所有者が中心。
皆さん口をそろえて言うのは「認知症になったらどうしよう」ということです。例えばアパートを持っている方が認知症になってしまった場合、管理・入居者募集・賃貸借契約の締結などの仕事ができなくなってしまいます。家族信託は、そのような状況になる前の事前対策なのです。
いつからの制度か
高齢者が増え、同時に認知症になる人も増えてきたことから「家族信託」という制度が注目を集めるようになってきました。平成18年に信託法の改正があり、一般の人でも信託を使えるようになったことが大きなきっかけです。以来、家族間でどういった使い方ができるのかという研究が進んできました。北海道では、ここ3年くらいで普及したように感じます。
認知症の事前対策として
例えば、「将来、認知症になったら施設に入りたい」と考えている人がいるとします。自宅はあるけれど、現預金はあまりないという場合。当然、施設に入る時は自宅を売却して、入居費用にあてたいと考えます。しかし、いざ施設に入ろうという段階で、本人が認知症になってしまっていたら、自宅を売却することができなくなります。入居費用を確保できない結果、施設入居自体ができなくなってしまうこともありえます。
家族信託をしておいて、自宅を受託者(子供がなることが一般的です)に託しておくことで、本人が認知症になっていても、受託者が代わりに不動産売買手続きをすることができるようになるのです。家族信託によって、認知症で財産が凍結してしまうことを防ぐことが可能なのです。「信託」と聞くと一部のお金持ちにしか関係のない話に聞こえがちですが、実際には上記の例のように、財産の大分部を自宅の不動産が占めるような一般の人も対象となるため、非常に利用範囲の広い制度といえます。
最初の相談者は息子や娘
最初に相談に来るのは、財産を託す人ではなく、託される側のお子さんにあたる人のことが多いです。「自分の親が高齢で、賃貸アパートを持っている。この先、親が認知症になったら入居者さんも困ると思う。どうしたらいいか」といった内容です。遺言書・生前贈与・成年後見といった他の財産の管理・承継の制度と比較して、家族信託のメリットを説明すると「これはいい!」となって本人(親)と相談するケースが多いです。
家族信託は新薬
家族信託はよく「新薬」に例えられます。新しい薬ができると、今まで治せなかった病気が治せるようになります。当然この新薬を使いこなすには、専門知識が必要です。家族信託もこれと同じです。でも使いこなせれば、これまでの制度ではできなかったことができるようになるのです。
遺言書・生前贈与との違い
遺言書は、書いた人が亡くなってから効力が生じるものです。家族信託の場合は、生前から財産を託すことが可能です。生前贈与をすると贈与税・不動産取得税などの税金が発生する可能性があります。この税金は現金で払わなければなりません。そうすると多額の現金が必要になります。家族信託の場合は、こうした贈与税や不動産取得税がかかりませんから、税金面でのメリットもあります。
契約書の作成流れと期間
家族信託は契約書を作成することで始めます。契約書の作成にかかる期間は、最初にご相談をいただいてから、おおよそ1カ月半~3か月。面談の回数は、少なくて2回〜3回。多いと5~6回ほどになります。最終的には、公証役場で契約書を公正証書にしてもらうことがほとんどです。
費用の目安
費用としては、コンサルティング料として信託財産の1%。例えば、2千万円の不動産と2千万円の現預金があり合計4千万円を信託する場合、その1%ですから40万円がコンサルティング料となります(最低価格が30万円です)。加えて、契約書作成費用が15万円程度。信託登記が必要になる場合、司法書士への報酬が10万円程度。公証人への手数料が数万円。以上の合計でざっくりいうと、「55万円から」という感じです(いずれも消費税別)。必ずしも全財産を信託する必要はなく、自分が希望する財産だけ信託することも可能です。
契約書は自分で作れるか 頼めばよいか
家族信託の契約書を個人が自分で作成するのは、高度の専門知識が必要であるため、非常に難しいと思います。経験がある専門家に頼むのが無難です。頼むことができる専門家は、私のような行政書士のほか、弁護士や司法書士です。どの資格者に頼んでも良いですが、依頼先の専門家が信託に詳しいかどうかがポイントです。たとえ弁護士や司法書士でも、詳しくない人に頼んでしまうと10年後や20年後に、本人の考えと違う状態になってしまうという事態も起こりかねません。
家族信託の契約は、長く続くものなので、将来起こりうるさまざまなパターンを見込んで、契約書の中に盛り込む必要があるからです。ここが一般の契約書とは異なるところであり、家族信託に強い専門家に依頼することが必要な理由です。加えて、家族の問題に深く踏み込むことから、親身になって相談できる専門家であることも大切です。
困るケースは
困るケースとしては、長男が受託者になる場合に次男がそのことに不満を持っているケースなどがあげられます。そのようなときは、長男が適切に信託財産を管理しているかどうかを監視する「信託監督人」や、受益者の承諾が必要な事項を受益者の代わりに承諾する「受益者代理人」といった立場に次男がなってもらって、できるだけ関係者全員の納得が得られるように努めます。
やりがいと想い
わたしは家族信託を提案して実際に始めていただいた結果、ご本人やご家族が安心して笑顔になる時に、一番やりがいを感じます。また、これからも一人でも多くの方に、同じように安心していただくための力になりたいと思っています。もし少しでも心配な人は、ぜひ一度ご相談ください。
行政書士 松本奈々絵(まつもと・ななえ)
行政書士法人第一事務所
1989年、小樽市生まれ。北星学園大卒、不動産業界で賃貸の営業などを経て、2018年に行政書士登録、入所。
法務・会計プラザ
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