1 約120年が経ったいま、改正された理由は?
おそらく最もよく耳にする法律の一つである「民法」の債権法と呼ばれる、契約等に関して規定する部分が改正され、2020年4月1日から新しくなりました。
実は、民法(債権法)については、1896年(明治29年)に制定されて以来、実に120年以上もの間、実質的な見直しがされてこなかったのです。その間に、情報化社会、高齢化社会を迎え、取引はますます複雑かつ高度になるなど、社会・経済がめまぐるしく変化するとともに、民法が具体的な事例に適用される過程で、多くの裁判例や取引実態に沿う解釈論が実務に定着してきました。
「司法試験」というと、分厚い六法全書に書かれている法律を丸暗記する勉強をしていると思われることも多々ありますが、実はそうではないんです。法律を勉強するに際して本当に苦労するのは、実は、120年間をかけて積み上げられた、法律の奥にある解釈論や裁判例を理解することにあるのです。
このように、社会・経済の変化や運用の実態が反映されてこなかった結果、法律の条文を読んでも実態が分からない状態、言ってしまえば、社会生活上の行為規範となるべき民法が時代遅れとなっていたと言えます。
民法の時代遅れを解消しよう!ということで、この度、
Point
⑴ 社会・経済の変化に対応する
⑵ 国民一般に分かりやすい民法にする
という2つの観点から、民法(債権法)の大改正が行われました。
2 改正の概要をポイントを絞って見てみましょう!
改正は多岐にわたるため、今回その全部を概観することは困難です。そこで、先ほど述べた⑴社会・経済の変化への対応、⑵国民に分かりやすい民法にする、という2つの観点から、特に生活上のかかわりが大きいと考えられるポイントに絞って見ていきたいと思います。
⑴ 「社会・経済の変化に対応する」という観点での改正
① 法定利率の引き下げ
従来、特に利率を約束していなかった場合には、年5パーセントという固定法定利率が適用されていました。しかし実社会は極めて低金利となっていることに照らし、今回の改正で、年3パーセントに引き下げるとともに、将来的にも市中の金利と大きく乖離することを防ぐために、3年ごとに法定利率を見直すという変動制が導入されました。まだ高金利ですが、少しは差が縮まったとはいえるでしょう。
② 消滅時効
「消滅時効」とは、一定期間権利を行使しないことによって権利自体が消滅するという制度です。従来は、例えば飲食店でのいわゆる「ツケ」の支払請求権は1年、弁護士報酬は2年などというように、権利の種類によってルールが異なりました。より分かりやすい制度にして取引の迅速化をはかるべく、今回の改正で、原則として権利を行使することができることを知った時から5年というシンプルなルールになりました。
③ 極度額の定めのない個人根保証契約の無効
「いきなり何を言っているの?」というような、いかにも法律がとっつきにくく感じる原因ともいうべき小難しい言葉ですね。「根保証契約」とは、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約をいうと解説されます。これでもまだ「何を言っているの?」ですよね(笑)。たとえば、子供が大学生になって一人暮らしをする際に、親御さんが契約者となり、親戚が保証人となる場合などが典型です。家を借りる契約にまつわる「一定の範囲」に属する、家賃の支払や退去の際の原状回復費用の支払など種々の「不特定の債務」を保証するからです。改正により、このような根保証契約を個人が結ぶ際には、支払いの責任を負う金額の上限(これを「極度額」といいます)を決めなければ、法律上無効とする、という規律が新たに導入されました。
⑵ 「国民一般に分かりやすい民法にする」という観点での改正
① 意思能力がない状態でされた行為は無効
「意思能力」とは、それ自体難しい概念なのですが、ここではひとまず、自分の行為の法的な意味を理解し判断する能力を指すと考えて下さい。例えば認知症により認知機能が著しく低下した状態など、意思能力がない状態でした行為は無効となります。肌感覚としても当たり前のようで、学説上も異論はなく、最高裁判所も認める考えなのですが、実は、今まで民法のどこにも規定がありませんでした。今回の改正で初めて、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と規定され、明確化されました。国民一般に分かりやすくとはいっても、身構えてしまいそうな堅い言葉遣いになってしまっていますね。
② 賃貸借契約終了時の原状回復義務
借りていたアパートから出るときに、ドアの傷や床のへこみの修繕費用について、「自分が払わなければいけないの?」と悩んだ経験、多くの人にあると思います。これも、民法上には明確に規定されていないものの、最高裁判所の考え方によれば、「賃借人が通常の使用及び収益をしたことにより生じた賃借物の劣化又は価値の減少」については借りていた人の原状回復義務の範囲外であるとされていました。今回の改正でこの考え方を民法に取り込み、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」は原状回復義務の範囲に含まれない旨が明確に規定されました。
結局、どこまでが借主の負担?
クロスの変色はもちろん経年変化ですし、家具の設置による床のへこみや、壁にカレンダーを掲げるために開けた軽度な画びょうやピン等の穴(下地ボードの張替を要するネジ穴やクギ穴を除く)は通常損耗と考えられています。また、結露について気になることも多いと思いますが、構造上の問題であることが多く、拭取りなどの通常の手入れをしていても生じるものは通常損耗とされます。ただ、ひどい場合には貸主に通知をするなどし、放置してカビさせたりすることのないように気を付けないと、借主の負担とされる可能性があるので注意が必要です。豆知識として参考にされてください。
3 さいごに
今回は、民法(債権法)改正を、ポイントを絞って見ていきましたが、その他にもまだまだ幅広く改正されています。また、今回触れたものも、簡略化して説明している部分がありますので、現実の問題の解決には、より専門的な知識を要することが多いと思われます。生活の中で困りごとや疑問が生じましたら、法務会計プラザまで、お気軽にご相談ください。
弁護士法人 太田・小幡綜合法律事務所
弁護士 菊地紘介
法務・会計プラザ
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