コロナ禍でも不動産価格が上がる?注目の札幌近郊の不動産について

コロナ禍でも不動産価格が上がる?注目の札幌近郊の不動産について

新型コロナウイルス感染症が発生した令和2年初頭から既に1年半になろうとしている。

令和3年4月には、3度目の緊急事態宣言が発令され、6月にはまん延防止等重点措置地域とされて、その効果があるのか否かは不明であるが、近頃では感染者数は減少してきている。 

但し、先行きについては未だ不透明で、ワクチン接種の効果、東京オリンピックの開催等がどう影響するかは予測できない。

この1年半の中で、不動産価格の指標である「地価公示価格」と「地価調査価格」が国土交通省と北海道から公表されている。

民間調査会社の不動産投資レポート等においては、コロナ禍における景気動向の低迷予測から、不動産市場についてもネガティブな論調が少なくなかったが、実際に公表された公示価格等は必ずしも悲観的なものでなく、用途によっては高い上昇率を示した地点も存在した。

 以下では、現状での不動産市場の状況について考察する。

【本記事のポイント】

  • 地価の高騰に影響されにくいマンションや戸建て住宅の需要は相変わらず旺盛で、コロナ禍にあっても札幌の地価は上昇傾向にある。
  • オフィス用物件への投資は様子見であるが、このコロナ禍で却って対面でのコミュニケーションが見直されており、リモートワークが取り沙汰された頃の「オフィスが大きく縮小される」という予想が外れる可能性も高い。
  • 駅前通りのオフィスビルの多くが、札幌オリンピック開催の1972年前後に建築されており、これらのビルが一斉に建替えの時期にきている。そのため今後数年、オフィス移転などにより事業用物件の供給がひっ迫することが予想される。

今の公示価格はどうなっているか?

新型コロナウイルス感染症が発生した直近に公表されたのが、令和2年7月1日時点の価格である北海道地価調査、基準地価格であった。

札幌市における平均変動率を見ると、住宅地、商業地とも約6%台の上昇となっている。

(1)地価調査価格

基準地価格
(変動率)
住宅地 商業地
 R2   R1   R2   R1 
札幌市 6.1% 6.1% 6.6% 11.0%

商業地の変動率は若干縮小したが住宅地については、新型コロナウイルス感染症発生前と同水準の上昇となった。

この結果については「令和2年度(2020年度) 北海道地価調査書」によると、

「住宅地は、新型コロナウイルスの影響は確認されず、価格水準の高い中央区から相対的に割安感のある隣接区等の利便性の高い地域へ需要が分散しており、平均変動率は横ばいとなった。商業地は、一部の商業地において新型コロナウイルスの影響による経済活動の停滞が生じたことなどから上昇が鈍化した。」となっている。

(2)地価公示価格

その後令和3年1月1日時点の価格を求める、地価公示価格が公表され、札幌市における変動率は次の通りである。

公示価格
(変動率)
住宅地 商業地
 R3   R2   R3   R2 
札幌市 4.3% 7.1% 2.9% 10.2%

新型コロナウイルスの感染症が発生して約1年が経過した中では、変動率は住宅地、商業地とも変動率は前年と比較して縮小したが、地価は上昇が継続している。

特に商業地は、ホテル、飲食店舗、観光客向販売店舗が存する、札幌市中心部の高度商業地においてはコロナ禍の影響から地価を下げた地点と、様子見で横ばいとなった地点が見受けられた。

「令和3年地価公示結果(北海道分)」によると、

令和2年3月頃から新型コロナの影響が認められた。現段階では、今後雇用・所得環境の改善が続くかどうか不透明な部分もあるが、政府の金融緩和政策の追加継続等の緊急経済対策により金融崩壊には至っていない。特に住宅地については、現在のところ新型コロナの影響が少なく、低金利政策の継続の要因が強い状態であるが、物件契約・内覧ができない期間もあり、全体的には昨年の上昇率が鈍化している。札幌市の上昇率鈍化が大きいが、半面札幌市に隣接し、札幌市に比較して価格水準が低い市部の上昇地点が目立ち始めた。一方で、旧産炭地をはじめとする人口減少が続く地方は未だ下落傾向となっている。

とされており、住宅地については影響が少ないとされている。

なぜ地価が上がっているのか?

(1)不動産市場の推移

これまで、札幌市の地価上昇を牽引してきたのは、まずはマンションデベロッパーのマンション用地取得、次に本州資本等による収益物件購入、更に収益物件建築のための用地取得、そしてインバウンド観光客を見込んだホテル運営のための用地取得が土地価格を高騰させてきた。

マンション用地取得は、中央区を中心としていたが、土地価格の高騰、建築費の上昇により分譲価格が高くなりすぎたこと、分譲価格を下げるためにマンションの分譲面積を狭くしたところ、その設計プランが購入層には不人気であったこと等から、新築分譲マンションの売出件数は減少し、ここ数年は仕入れが激減している。

収益物件需要は、駿河銀行の融資に関連して、金融機関の不動産投資に対する融資条件が厳しくなったことから件数は減少した。但し、世界的な過剰流動性が続いている中、自己資金保有者の投資意欲は強く、取引は現状においても引続き堅調に推移している。

上記2つに代わって、市場を活性化させていたのが、ホテル用地取得需要である。外国人観光客が増えたことで、これまでオフシーズンであった冬季間にも入込が期待できるようになったこともあり、ホテルは建設ラッシュが続いていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で外国人観光客の入込がゼロになったことから、ホテル、飲食業界が大きな打撃を受けて先行きも不透明な状況にある。

(2)現状で地価を上昇させている要因

住宅地

中央区において新築マンションの販売数が減少した結果、マンション購入者層は中央区内の中古マンションの購入に向かったことで、中央区における中古マンションの価格も高騰し、物件によっては新築時点のマンション購入価格よりも高値で売却されるケースもみられた。

中央区内でマンション購入を考えていた需要者層は、マンションの購入はあきらめて、その予算で購入できる戸建住宅を、他区で購入することに向かった。

まずは、地下鉄駅徒歩圏である、北区、豊平区、白石区、南区、東区の土地が取得された。その後、JR駅周辺にも広がり、現在では駅徒歩圏ではない、手稲区、清田区の郊外地においても、割安感から取引が多く見受けられ、戸建住宅用地が高値で取引されており、地価上昇となっている。

不動産業者へのヒアリングによると、「土地の売買価格を、路線価の1.5倍から1.6倍で値付けして市場にだすと、路線価の2倍で売れることもある。」とのこと。路線価は、公示価格等の8掛けを目処につけられているので、路線価の1.25倍が想定時価額相当であることからその高騰ぶりがうかがえる。

住宅需要が増加している背景には、低金利政策が続いていることがあげられる。住宅ローンの利率も低い状態にある。新型コロナウイルス感染症の影響は、これまでのバブル経済の崩壊や、リーマンショック、東日本大震災後の景気低迷時と異なり、全ての業種が業績悪化の影響を受けているわけではなく、当該情勢下においても好調な業績をあげている業種があることがあげられる。

一見、好調に思われる住宅需要であるが、公表されている「戸建住宅の着工件数」、「建築確認申請数」、「不動産の取引件数」の何れの数値をみても、前年と比較して減少している。もしや不動産業者は自分だけ儲けているか又は感覚でものを言っているのではないか?再度ヒアリングすると、「それは売り物件がないだけ。買いたいお客さんはいっぱいいるが、モノがないんだ。物件が出てきたら取り合いになる。だから高値がつくんだ。まあ、上限は希望者が買える値段(予算)までだけどね。」とのことである。

戸建住宅の着工件数は減っているが、分譲住宅の着工数は増加している。土地の購入はエンドユーザーだけでなく建築会社の仕入れも加わって激化している。需要に対して供給が少ない。この需給関係のギャップが地価の上昇を引き起こしている。

因みに、地方の役場で不動産市場について、コロナ禍の影響はあるかと聞いたところ、「感染者もいないし、新型コロナウイルスの影響はない。コロナの影響なく地価は下落している。(笑)」とのこと。人口減少、高齢化の進行が原因であろう。

商業地

地価公示等において、札幌市の商業地で下落しているのは、すすきの地区のポイントだけであるが、その他中心部のポイントについては、先行きの不透明感もあり横ばいとなっている。

土地価格の査定に当っては、取引事例比較法を適用するが、商業地、特に札幌市中心部の高度商業地において、取引事例はほとんど出てこない。駅前通りのビルが取引された場合は、それこそ新聞ネタ、若しくは業者間では知らない人がいない情報となるだろう。

取引事例がない場合に何を指標とするのか。これは空室率と募集賃料の推移である。中心部の商業地ではオフィスビル等が多く、取引においては収益価格が取り引きの判断において重視されることから、収益価格の算定において考慮される項目である、空室率と募集賃料が指標となる。

三幸エステート株式会社札幌支店発行の「Office Market 6月」によると札幌市の空室率は、

前月比マイナス0.18ポイントの3.25%となり、4カ月ぶりで低下に転じた。主要エリアの大規模・大型ビルを中心に空室床の解消が進み、低下の要因となった。空室率は依然として前月比マイナス0.20ポイントの4.41%だった。緊急事態宣言の再発令に伴い、東京からの出張が制限され物件見学が延期になる等、移転計画が停滞を余儀なくされるケースも見られる。

だそうである。

募集賃料は、

前月比マイナス197円/坪の9,706円/坪となった。2か月連続の下落となったが、9,000円/坪台後半の水準を維持している。

となっており、コロナ禍においてはほぼ横ばいで推移している。

他の賃貸仲介業者にヒアリングした結果は、

駅前通りのオフィスビルについては、新型コロナウイルス感染症の影響や、リモートワークへの転換による退去等は未だ伺えないし、賃料減額の要請もない。入居者は大企業が多いので動きはない。空室率が上昇することもあったが、20坪~30坪の小規模のテナントの退出等がみられる程度である。

これらのことから、地価は横ばいから上昇基調に変わっていくであろうと予測される。

今後の地価はどうなっていくか?

(1)住宅地

住宅地の地価は今後も上昇。

住宅地需要は、コロナ禍の影響は見受けられない。戸建住宅購入者の個別の資金、予算の上限までは土地値は上昇する。

購入者の予算においては住宅ローンの金利の変動も大きな要因となるが、金利の上昇は今のところなさそうである。

今、話題となっているのは「ウッドショック」と言われるものがある。

ウッドショックとは木材が不足し、木材価格が高騰するものである。過去にも何度か起きた事象だが、今回は新型コロナウイルス感染症の影響が大きい。

感染拡大する初期の段階において、アメリカでの住宅着工件数が大幅に減少、それによって製材業者が生産規模を縮小。その後、リモートワークが増加するにつれて、今度は住宅需要が増加、ローン金利の低下も加わって、木材需要が高まった。  

加えて、海運業者もコロナ禍でコンテナ数を減らしたため、輸入材がアメリカ、中国にむかい、日本に入ってこなくなった。中国の需要増も木材の価格高騰に拍車をかけている、というものである。

しかし、日本不動産研究所の最近の見立てでは、今のところ北海道ではウッドショックの影響はないと予測する、とのことである。

輸入材の減少、価格の高騰で日本でも住宅価格が高騰すると、総額で予算が決まっている購入者層は土地の価格を抑えるか、購入自体をあきらめるしかなくなり、取引件数が減少することになるが、どうなるか。

郊外の戸建住宅も、中央区でよくみられた、一般的な戸建住宅の敷地面積の半分にして、RC3階建の建物を建てる様式であれば木材は多くは使わないので影響は小さいだろう。

(2)商業地

  • 札幌市中心部のオフィスビル街は、再開発、新幹線の札幌延伸、容積率の緩和等の影響により、地価は今後も上昇。
  • すすきの、狸小路周辺等のホテル、飲食店舗が集積する地域については、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、下落基調であるが、未だ様子見の状態。

駅前通りのオフィスビルの多くが、札幌オリンピック開催の1972年前後に建築されており、これらのビルが一斉に建替えの時期にきている。実際には既に数棟は建替えを実施して、竣工しているが、今後も再開発が計画されており新規のオフィスビルの供給が増加する。

今後もここ1,2年において、既存ビルの建て替えが予定されており、同ビル入居者の移転が増加するが、今年と来年は新規のビルの供給がなく、移転先は取り合いになる可能性が高い。新規ビルの竣工までつなぎで移転するか、違うビルに完全に移転するか、どちらにせよ既存床の減少が始まる。

新規ビルが完成すると、供給床が増加して、空室率が上昇することが想定されるが、新規ビルには、中心部周辺のビルに入居していたテナントの入居が見込まれ、実際に空室率が上昇するのは、中心部周辺の既存ビルであり、駅前通りのビルは現在と変わらず推移すると予測する。

空室率が低いままであれば、募集賃料が下がらなければ中心部の商業地の価格は下落せず、上昇することも予測されるのである。

コロナ化で、リモートワークが推進されると、中心部に大きな面積のオフィスは不要となるのではないか、との見方がある。一時的には、その流れがあるかもしれない。

  • 新年度に入って、事務所に出社したのは、1回だけ(大手鉄鋼メーカー)
  • 東京勤務であったが、もう1年以上札幌でリモート勤務。事務所にも行くことにはなっているが、行っていない。行かなくても支障はない。(外資系コンピュータサービス企業)
  • 今年に入って出社したのは3回。今後もこのまま続くと思います。事務所も縮小を検討している。(大手電機メーカー)

ヒアリング結果では、東京のソフト会社、システム会社を中心にリモートワークが進んでいる。こちらも業種によっては、リモートワークが進み、事務所スペースの縮小等が進む可能性はある。

但し、過去にも、オフィスの在り方は変化していった。

バブル期には、建築費に糸目をつけないようなビルの建設が進んだ。高価な本社ビルで働くことが社員達のステータスとなった。

バブル崩壊後は、本社や事務所にはお金を掛けない。古くても設備が悪くても、お金を掛けないことが良しとされた。

人口の減少、特に団塊の世代が退職する時期には、賃借面積は減らされるのでビル経営は成り立たない、と言われたが、結局は一人当たりの占有面積が増やされて以前と変わらない面積で継続されている。

近年では、再開発や建替えにより新規ビルが建設される時期にあたり、指向は再度、社員の待遇の良化に向いている。

今回も、コロナ禍でテレワークが推奨されており、時代の流れとしては、事務所面積が現状の面積よりも減らされる可能性はある、という風潮が見受けられる。

が、しかしである。ニッセイ基礎研究所発行、「基礎研レポート」2021年6月の中でこんな記事があった。

オフィス戦略の先進事例である米アマゾン・ドット・コムと同グーグルが、コロナ禍の中で、あえて米国内でのオフィス増床を続行するとの力強い表明を揃って行った。

グーグルのCEO曰く、

社員間でコラボレーションしコミュニティを構築するために直接集まることは、グーグルの文化の中核であり、今後も我々の将来の重要な部分となるだろう。だから我々は、全米にわたってオフィスへの大規模な投資を引き続き行う

と述べている。

同レポートの筆者は、

在宅勤務の生産性は、自宅の環境要因によって従業員間で大きな格差が生じかねず、企業は在宅勤務を平時に本格導入するなら、生産性格差是正のために従業員に環境整備(例:オフィス家具やIT関連機器の導入、ワークスペース設置のためのリノベーションの実施など)の金銭的サポートを行うべきだ。テレワークの場の選択肢をホームワーク一辺倒ではなく、従業員の居住地近隣のサテライトオフィスへ拡大することも一法だ。

オフィス機能は、テレワークでは代替できず、主として大都市圏に立地するメインオフィスの重要性は今後も変わらない。逆にメインオフィスで醸成される従業員間の信頼感は、テレワークの円滑な運用に欠かせない。

一時的に発生している空きスペースは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)のために有効活用できる

と記している。

最もテレワークを進めるであろうとイメージされる会社も、社員同士又はお客様と直接顔を会わせることが重要としていることは興味深い。

以上を考察しても、再度言うが、大手賃貸仲介業者は、リモートワークの増加される可能性が高くとも、札幌駅前通りのオフィスビルの入居状況は、今後も変わらないと予測しているのである。

コロナ禍の現状で最も影響を受けている業種についてはどうであろうか。

今後建設される再開発ビルには、中央区北4西3地区、中央区南4西4ススキノラフィラ建替え工事、北5西1・西2地区等があるが、何れも「ホテル」、「飲食店」等も計画されており、コロナ禍で最も影響を受けている、観光業、ホテル業、飲食業についても、アフターコロナでの観光客等の入込を見込んでいる。

ホテル、観光客向けの物販店、飲食店が建ち並んでいる小樽市の運河沿いの地域では、緊急事態宣言下においては、人通りはほとんどない状態であったが、地元の業者に聞くと「コロナ禍が解消されれば、以前の状態に戻ると、購入希望者は思っているので、地価は下がっていない。」という。

確かにGo Toキャンペーンの時は、ホテル稼働率は90%を超える状況になっていた。

市場は、コロナ禍終息後はコロナ禍前の状況に戻ると予測している。

但し、ホテルも飲食店も装置産業であり、今日売れ残ったら明日は売れないものである。持っている部屋数、席数以上は売れない。客単価を上げるしかないことになる。利用者負担となるのは予想できる。

以上、コロナ禍における不動産市場の状況について述べたが、北海道は観光業が占める割合が大きいことから、現在の状況が長引けば、市場経済が更に悪下する可能性もあり、不動産市場にも影響を及ぼすことが予測される。現状では、「不動産需要は、住宅地、商業地とも堅調、地価は上昇傾向にある」が、今後も新型コロナウイルス感染症の状況に注視しなければならない。

(令和3年7月6日現在)

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