第一事務所通信 Vol.19━ シリーズ「組織再編」(その3) ━ 「吸収合併のスケジュール表の作成」

 
 

【はじめに】

本シリーズは、筆者が、合併、会社分割、株式交換・株式移転(、事業譲渡)等の会社の組織再編の法務・登記を取り扱う中で気が付いた、実務上の注意点・重要点についての情報をご提供するものです。

前々回は、吸収合併の消滅会社の許認可事業の注意点ついて、前回は、債権者保護手続の注意点についてまとめました。

 

今回は、前々回・前回の注意点を踏まえて、組織再編のスケジュールを組む(スケジュール表を作成する)にあたっての注意点をご説明します。

 

今回も、組織再編のうち最も基本的な類型である吸収合併を例にとり、

■吸収合併により存続する会社(存続会社):A社

■吸収合併により消滅する会社(消滅会社):B社

としてご説明します。

 

また、A社・B社とも、

■取締役会のある会社

■閉鎖会社(株式の譲渡制限のある会社)

を想定してご説明します。

 

 

【スケジュール表を作成することの意義】

 

吸収合併を実施することになったら、初めにスケジュール表を作成するのが通常です。

効力発生日(法律上A社とB社が1つになる日)にむけて、「何をいつまでに実施するべきか?」をスケジュール表に落とし込むことで、関係者の認識を共通にしたり、「いつまでに●●の準備をしなければならない。」に対する現在の進捗状況を確認したりするのに役立ちます。

 

「いつまでに何をしなければいけないか?」が明確になっておらず、本来なすべき手続きを漏らしてしまうと、吸収合併契約に記載した効力発生日に吸収合併の効力が発生しない事態になりかねません。また、最悪の場合、これまで準備してきた事項が無駄になり、改めて0スタートで全ての手続きをやり直さなければならない事態になりかねませんので、スケジュール表の作成は組織再編の法務の中でも非常に重要なプロセスです。

 

 

【スケジュール表を作成するにあたって確認するべき事項】

 

実際にスケジュール表の作成に入る前に、スケジュールに大きな影響を及ぼす下記のような事項を確認するようにしましょう。

 

①B社は許認可事業を行っていないか?行っている許認可事業の種類は?

B社が許認可事業を行っていないかと、行っている場合その種類を、確認してください。

許認可には、効力発生日までに所管の行政庁の承認を取らないと許認可をA社に引き継げないタイプのものや、より強力に、行政庁の吸収合併についての認可がないと吸収合併の効力自体が発生しないタイプのもの(★)などがあります。

また、B社が実際には★を行っていないものの、登記簿からは★を行っているように見える場合、所管の行政庁に証明書を発行してもらうことが必要になります。(所管の役所によっては証明書の発行に対応してくれない場合もあり、その場合は目的変更をするなどの対応が必要です。)

いずれも、官公庁の手続きが絡みますので、1か月以上は時間がかかるのが通常であるため、スケジュールに大きく影響します。

(吸収合併と許認可については、『第一事務所通信 Vol.17 ━ シリーズ「組織再編」(その1) ━』 をご確認ください。)

 

②A社・B社は決算公告を行っているか?

A社・B社が、直近の事業年度の決算公告を行っているかどうかを、確認してください。

吸収合併の手続きの中で、一般に最も時間がかかるのが、「債権者保護手続」です。

A社・B社が決算公告を行っていないと、債権者保護手続の準備に時間がかかります。

(債権者保護手続と決算公告については、『第一事務所通信 Vol.18 ━ シリーズ「組織再編」(その2) ━』をご確認ください。)

※本稿では、A社・B社とも定款所定の公告方法が官報であり、いずれも決算公告を行っていないことを想定してご説明します。

 

③A社・B社の債権者の数は?公告方法は?

上記②同様、債権者保護手続に関わる部分です。

債権者が多数の場合は、催告書の発送の準備に時間がかかります。また、債権者が多すぎる場合や債権者の足切りをよしとしない場合は、事前に公告方法を変更する必要が発生するため、スケジュールに影響します。

(債権者保護手続中の催告書の発送や、事前の公告方法の変更などについては、『第一事務所通信 Vol.18 ━ シリーズ「組織再編」(その2) ━』をご確認ください。)

※本稿では、A社・B社とも公告方法を変更せず、催告書を発送することを想定してご説明します。

 

④B社は株券発行会社か?実際に株券を発行しているか?

B社が株券発行会社かどうかを、確認してください。

株券発行会社であるかどうかは、B社の定款・登記簿を見れば確認することができます。定款や登記簿に「当会社の株式については、株券を発行する。」といった記載があれば株券発行会社です。

 

B社が株券発行会社である場合、次に、B社は実際に株券を発行しているかどうかを確認してください。定款や登記簿に「株券を発行する。」との記載があっても、現実には株券を発行していないこともありますので確認が必要です。

 

もし、B社が株券発行会社であり、現実に株券を発行している場合、B社の株主に対して「株券提供手続」を取るか、B社の株主から「株券不所持の申出」を行ってもらう必要があります。

 

「株券提供手続」とは、B社がB社の株主に対して「株券を会社に提出してください。」という内容を、公告するとともに手紙で送る手続きです。株券提供手続は、効力発生日の1か月以上前に公告を掲載するとともに株主へ手紙を発送(し到達)する必要があります。

一方、「株券不所持の申出」とは、B社の株主がB社に「私は株券を所持していることを希望しません。」と申出する手続きです。株券不所持の申出は、株券が発行されている場合、株券を提出して行う必要があります。

 

B社の株主が少数で、株主全員から株券不所持の申出をしてもらうことが可能であれば、株券不所持の申出を行ってもらう方が優れています。なぜなら、株券提供手続には公告費用・郵送料がかかるほか、公告の掲載・手紙の発送から合併期日までに1か月を空ける必要があるため時間的制約を受けるからです。

株券不所持の申出であれば、費用は掛かりませんし、B社の株主から株券と申出書を提出してもらうだけですので、最短1日で実行可能です。

 

なお、現在は、株券は不発行が原則であることから、本稿では、B社は株券不発行会社(定款・登記簿に「株券を発行する。」との記載がない会社)であるとの前提でご説明します。

 

 

【スケジュール表の作成】

 

上記のような事項が確認出来たら、スケジュール表を作成します。

スケジュール表のフォーマットに決まりはありませんが、「何を?いつまでに?」する必要があるかが明確になることが重要です。

 

以下、令和3年11月1日を効力発生日としてスケジュール表を作成する場合の注意事項を、吸収合併の手続きの類型ごとにご説明します。

※スケジュール表は末尾のダウンロードボタンからダウンロード可能です。 

 

⑴合併契約書の作成・承認関連

効力発生日の1.5か月程度前(9月15日)までに合併契約書の内容を確定させ、1か月程度前までにA社・B社の取締役会でこれを承認します。(9月24日)

この合併契約承認の取締役会で、合併契約承認の株主総会の招集も合わせて決議するのが通常です。

 

取締役会で合併契約書を承認したら、速やかに両社の代表取締役により合併契約書に調印を行います。(9月24日)

 

合併契約書の承認の株主総会の招集通知を準備して、株主総会の会日の1週間前までに発送します。

この招集通知には、後記⑷の株主に対する通知書を同封するのが簡便です。この場合は、株主総会の会日の1週間前且つ吸収合併の効力発生日の20日前に発送(し、到達するように)します。(9月28日)

 

吸収合併の効力発生日の前日までに、株主総会を開催して、合併契約を承認します。(10月15日)

 

⑵許認可関連

遅くとも、効力発生日の1.5か月程度前(9月15日)までには、B社の許認可を全て洗い出して、許認可を承継するために行政庁の承認が必要なタイプの許認可、吸収合併の効力発生に行政庁の認可が必要な許認可(★)については、効力発生日の1か月程度前までに承認・認可の申請を行います。(9月24日)

 

吸収合併の効力発生日の3日くらい前までに、承認・認可にかかる書面を行政庁から受領します。(10月26日)

 

また、B社が実際には★を行っていないものの、登記簿からは★を行っているように見える場合、効力発生日の2週間くらい前までに証明書の発行を申請し(10月15日)、3日くらい前までに証明書を受け取ります。(10月26日)

 

⑶債権者保護手続関連

遅くとも、効力発生日の1か月+数日前までに

・官報公告の掲載

・催告書を債権者に発送(し到達)

する必要があります。(9月24日)

 

これに間に合うように、官報公告の掲載希望日(9月24日)の中15営業日前までに、官報の取次ぎ代理店に合併公告の原稿と最終の貸借対照表を送って官報公告の掲載を依頼するようにします。(9月1日)

 

また、催告書の発送予定日(9月24日)の1週間くらい前までに、催告書の発送対象の債権者のリストを作成し(9月17日)、発送の前日まで(9月22日)に宛名シールの準備・催告書の封詰めなどの準備を完了させ、発送予定日に投函します。

 

⑷株主通知関連

A社・B社の株主に対して、吸収合併を行うことを通知して、吸収合併を承服しない株主が自らの保有する株式をA社・B社に買い取ってほしいと請求(株式買取請求)をする機会を確保するための手続きです。

 

吸収合併の効力発生日の20日前までに、通知書を株主に対して発送(し到達)する必要があります。

 

通常、株主総会の招集通知に同封して発送します。(9月28日)

 

⑸事前開示・事後開示関連

「事前開示」とは、吸収合併についての重要事項が記載された書面をA社・B社の本店に備え置いて、債権者や株主に対して、吸収合併に対する異議や株式買取請求などを行うかについての判断材料となる情報提供をするための手続きです。

 

事前開示は、A社・B社において他の手続きの開始日(9月24日)から、B社においては効力発生日まで、A社においては効力発生日から6か月を経過する日まで継続します。

 

「事後開示」とは、吸収合併についての経緯が記載された書面をA社の本店に備え置いて、債権者や株主に対して、吸収合併無効の訴えを提起するかについての判断材料となる情報を提供するための手続きです。

 

事後開示は、A社において吸収合併の効力発生日後遅滞なく開始し(11月2日)、効力発生日から6か月を経過する日まで継続します。

 

⑹その他(登記関連など)

吸収合併の効力が発生したら、2週間以内にA社・B社について商業登記を申請することが義務付けられています。

ただ、吸収合併(などの組織再編)は重要事項であること、組織再編後の各種届出などに吸収合併の登記が実行された後の登記簿謄本が必要となることから、通常効力発生日当日(効力発生日が法務局の非営業日の場合は翌営業日)に登記申請します。

 

登記申請日の3日くらい前までに、登記申請の必要書類を司法書士に引き渡すようにします。(10月26日)

(※依頼自体は可能な限り早く行って下さい。)

 

管轄の法務局にもよりますが、登記申請から1週間から2週間程度で登記が完了し、吸収合併の記載がある登記簿謄本が取得できます。

その登記簿謄本を添付して、速やかに各種の届け出を行うようにします。

届け出先としては、各種の役所、銀行、取引先などが想定されます。

 

また、社会保険の関係の各種届出では、提出期限が効力発生日から5日以内・10日以内となっているものもありますので、事前に年金事務所・ハローワークなどに確認するか、社会保険労務士などの専門家にご相談いただくのが良いでしょう。

 

⑺効力発生日の変更

スケジュール表の作成からは外れますが、当初吸収合併契約の中で定めた効力発生日までにすべての手続きが完了しない場合(債権者保護手続が終了しない場合などが典型です)は、効力発生日を変更することが必要です。

 

効力発生日の変更には、

■A社・B社の取締役会の決議

■A社・B社の効力発生日の変更についての合意

■B社による変更後の効力発生日の公告

を、当初の効力発生日の前日までに実施する必要があります。

 

もし上記が、当初の効力発生日までに間に合わない場合、全ての手続きをはじめからやり直すことが必要になってしまいます。

 

 

【まとめ】

 

吸収合併等の組織再編は、会社の根幹部分に手入れを行う行為であるため、多数の利害関係者が存在します。これらの利害関係者ごとに伺いを立てる手続きが存在するため、手続きが複層的で複雑です。

 

したがって、全ての手続きを期限までにもれなく実施するために、本稿でご説明したように、スケジュール表の作成をぬかりなく行うことが重要です。

 

司法書士や弁護士などの専門家にスケジュール表の作成から依頼をするか、少なくとも自社で作成したスケジュール表に問題がないか、チェックを依頼するようにしてください。

 

 

【終わりに】

 

今回は、組織再編(吸収合併)のスケジュール表の作成についてご説明しました。

 

次回は、令和3年3月1日施行の改正会社法で創設された、新しい組織再編である株式交付についてご説明します。

 

当事務所では、

・吸収合併、新設合併

・吸収分割、新設分割

・株式交換、株式移転

・事業譲渡

などの組織再編のご相談・ご依頼を承っております。

 

自社や関与先企業様についてのご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

 

司法書士法人第一事務所

司法書士 神沼 博充

 

 

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神沼 博充

神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
お問合せ・ご相談は下記までご連絡ください。
☎011-231-3330(代表) 0120-050-316(債務整理専用フリーダイヤル)
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