第一事務所通信 Vol.17  ━ シリーズ「組織再編」(その1)

━ シリーズ「組織再編」(その1) ━

 

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【はじめに】
合併、会社分割、株式交換・株式移転(、事業譲渡)といった、組織再編の法務・登記のご依頼が増えています。 

組織再編は、事後承継において、親族内承継・親族外承継(M&A)のいずれでも、スキームの一環として行われることがあります。したがって、事業承継の活発化は、組織再編の増加の要因となります。

 また、新型コロナウィルス感染症の流行が続く中で、複数の関連会社を有する企業グループが、収益が悪化し短期での回復が見込めない事業(関連会社)を整理する目的で行われる事例も増えていると実感してます。

 その他には、自社企業グループの運営の最適化を図るためにホールディングス(持ち株会社)体制を構築するスキームの一環や、事業規模を拡大することにより仕入などの取引条件の有利化を図るなど、組織再編が行われる理由は様々です。

 組織再編には、会社の法人格・事業・株式などを、「まとめる」・「切り分ける」・「入れ替える」など、会社の根幹部分に手入れを行う行為であるため、株主・取引先(債権者)・従業員・行政庁など多数の利害関係者が存在します。組織再編を行うには、会社法その他の法令上、これらの利害関係者にお伺いを立てることが義務付けられているため、手続きが複層的で複雑です。

 組織再編の全般的な手続きの解説は、良質な書籍が多数出版されておりますのでそちらに譲るとして、本シリーズでは筆者が組織再編の法務に関与する中で、特に気づいた点・注意を要すると感じた点について記載いたします。

 組織再編には、
■吸収型再編:吸収合併、吸収分割、株式交換(、事業譲渡)
■新設型再編:新設合併、新設分割、株式移転
がありますが、本稿では最も基本的な類型である吸収合併を例にとり、
■吸収合併により存続する会社(存続会社):A社
■吸収合併により消滅する会社(消滅会社):B社
としてご説明します。


  【許認可事業について】 
会社が一定の業務を行おうとする場合に、法令に「●●(※)の許可を受けなければならない。」などと定められていることがあります。(このような事業を、本稿では「許認可事業」といいます。)
※「●●」:「都道府県知事」・「○○大臣」などの行政庁 

許認可事業の種類は様々ですが、一般になじみが深いのは、
・飲食店営業(食品衛生法)
・旅行業・旅行代理店業(旅行業法)
・警備業(警備業法)
・宅地建物取引業(宅地建物取引業法)
・建設業(建設業法)
などでしょうか。

 ところで、合併を行う際に、消滅会社であるB社が保有している許認可はどうなるでしょうか?許認可については、司法書士の専門領域からは外れますが、組織再編の法務では非常に重要な部分と考えますので、以下ご説明します。


  【消滅会社の保有する許認可について】
 B社(消滅会社)の保有する許認可が合併に伴いどうなるかは、当該許認可の根拠法令の規定により、次のようにタイプ分けすることができます。(合わせて、各タイプに該当する許認可で、筆者が実務で出会ったものと根拠法令を記載します。)

 ①合併により当然に承継されるもの
合併に際し何もしなくても、B社が合併により消滅すると、当然に許認可がA社に承継されるタイプの許認可です。
■飲食店営業の許可(食品衛生法55条1項)
 ⇒同法56条1項により当然承継。
このタイプの許認可は、合併期日(吸収合併の効力発生日)を迎え、合併の登記申請を行い、A社がB社を吸収合併した旨の登記簿謄本が出来上がったら、これを添付してA社が行政庁に対して事後届出を行うのが一般的です。

 ②承継することができないもの
B社が合併で消滅すると、許認可も消滅してしまい、A社に許認可を承継することができないタイプの許認可です。
■旅行業の登録(旅行業法3条)
 ⇒同法に登録を承継できる旨の記載がない。
■宅地建物取引業の免許(宅地建物取引業法3条)
 ⇒同法に免許を承継できる旨の記載がない。
A社が当該許認可業務を行うには、A社が既に当該許認可を保有している場合を除き、A社が改めて許認可を取得する必要があります。B社が行っていた許認可事業をA社が合併を境に切れ目なく行うには、事前の対応が必要です。

 ③承継するには事前の承認等を要するもの
B社が合併の効力発生に先立って事前に行政庁に申請を行い、行政庁の承認を得ることで、A社に許認可が承継されるタイプのものです。
■温泉の利用許可(温泉法15条1項)
 ⇒同法16条1項により承認を受けることにより承継。
■風俗営業(スナック)の許可(風俗営業法3条1項)
 ⇒同法7条の2 1項により承認を受けることにより承継
合併を行う場合、A社はB社の行っている業務の全部を、合併後も少なくとも一時的には行うことが想定されているのが通常です。
そうすると、事前に承認等を得ずに合併を行ってしまうと、A社がその業務を行うことは無許可営業となってしまい、行政処分などの対象なるため注意が必要です。

 ④事前の認可を受けないと合併の効力が発生しないもの
B社が合併について行政庁の認可を受けないと、合併の効力が発生しないタイプの許認可です。
■一般貨物自動車運送事業の許可(貨物自動車運送事業法3条)
 ⇒同法30条2項により認可を受けないと合併の効力が発生しない。
■索道事業の許可(鉄道事業法32条)
 ⇒同法38条による26条2項の準用により認可を受けないと合併の効力が発生しない。
■一般送配電事業の許可(電気事業法3条)
 ⇒同法10条2項により認可を受けないと合併の効力が発生しない。
B社がこのタイプの許認可を取得している場合、会社法の規定に従った合併の手続きを行うだけでは合併の効力が発生しません。
吸収合併は、A社・B社間で取り交わす合併契約の中で、「本合併の効力発生日は、令和3年10月1日とする。」などと効力発生日(B社が消滅しA社に承継される日)を定めて実施され、その効力発生日をエンドにして、全ての手続きのスケジュールを組んで行います。(組織再編のスケジュール組みについては、本シリーズの別回でご説明予定です。)
もし、このタイプの許認可について、事前の認可が得られないと合併の効力が発生しないとの認識を持たずに手続きを進めてしまうと、合併契約書に記載した効力発生日に合併の効力が発生しないという事態に陥ってしまいます。
また、認識を持ったとしても、それが合併契約書記載の効力発生日直前だった場合、行政庁の認可には一般に1か月~2か月の期間が掛かるため、行政庁の認可が下りるのが合併契約書記載の効力発生日に間に合わず、同日に合併の効力が発生しないという事態に陥ります。従って、効力発生日に対して十分に余裕をもって、合併についての行政庁の認可が必要との認識を持つとともに認可取得の手続きを行うことが重要です。 



また、このタイプの許認可については、司法書士の専門領域である登記手続的には、別の問題が存在します。(以下「一般貨物自動車運送事業」を例にご説明します。) 

B社が一般貨物自動車運送事業の許可を受けている場合、合併登記を申請する際に商業登記を所管する法務局に合併についての認可書を提出します。(認可書を発行してもらうのに、ある程度時間がかかるのは上述のとおりです。)
 上記別の問題が生じるのは、B社の定款・登記簿に「目的」として、「一般貨物自動車運送事業」が記載されているものの、実際にはB社は一般貨物自動車運送事業を行っていない(当然、これについての許認可も受けていない)ような場合です。

 このような場合、B社が合併するのに行政庁の認可は不要であり、合併登記を申請する際に認可書を提出することは不要です。 

しかし、認可書を提出せずに合併の商業登記が申請された場合、法務局としては、
B社が、
❶実際に許認可を受けて一般貨物自動車運送事業を行っている
 =合併について認可が必要
 ⇒合併登記の申請書に認可書を添付することが必要
❷目的には掲げているものの実際には一般貨物自動車運送事業を行っていない 
 =合併について認可は不要
 ⇒合併登記の申請書に認可書を添付することは不要
のいずれであるかの判断がつきません。
※現行の制度上、法務局は登記簿の記載内容と提出された書面のみをもとに登記申請の適否の判断をすることとなっており、一般貨物自動車運送事業の監督官庁(国土交通省)に問合せを行ったり、データベースにアクセスしたりすることはできません。
 
そうすると、法務局としては仮に今回の申請が➋であっても、❶である可能性がある以上、合併の登記を受理することができません。 

そのため、合併登記の当事者であるB社(を承継したA社)は、今回の合併が➋に該当し、合併についての認可が不要なケースであることを、法務局に対して証明する必要があります。 

これについては、一般貨物自動車運送事業を所管する国土交通省から、合併について「認可を要しない旨の証明書」(「証明書」)を発行してもらい合併登記の申請書に添付することにより、➋に該当し合併についての認可が不要であることを証明せよとの取扱いになっています。
 
上記のような対応は、登記事務を取り扱う法務省と貨物運送事業を所管する国土交通省の協議のもとに行われているものですが、このような協議が全ての省庁との間で行われているわけではないようです。
 
したがって、一般貨物自動車運送事業であれば比較的スムーズに証明書を発行してもらえますが、許認可事業の種類(=所管の役所)によっては「法的根拠がない」として、証明書を発行してもらえない場合があります。
 
詳細は記載できませんが、筆者の経験では、所管の役所に掛け合っても証明書を発行してもらうことができなかったため、やむを得ず、合併期日に先立ってB社に株主総会を開催してもらい、目的を変更してもらったことがあります。

 株主総会を開催するのにも、一定の期間が必要であるため、上記のように証明書を発行してもらえないことが判明する時点が合併期日のぎりぎりだったとすると、合併期日に間に合わない可能性があります。
 
従って、証明書の取得の要否・可否についても、効力発生日に対して十分に余裕をもって判断し対応を行うことが必要です。

  【まとめ】
 以上のとおり、消滅会社の許認可事業は、合併手続きと関連では、
①合併により当然に承継されるもの
②承継することができないもの
③承継するには事前の承認等を要するもの
④事前の認可を受けないと合併の効力が発生しないもの
といったタイプが存在します。 

このうち、②③は、A社が合併後切れ目なくB社が行っていた許認可事業を行うために、④については当事者が企図し合併契約に記載した効力発生日に効力を発生させるために、非常に重要な事項となります。 

合併の計画が持ち上がったらできるだけ早い段階で、B社(消滅会社)の保有している許認可をすべて洗い出して、①~④のいずれに該当するのかを検証することが必要です。 

検証方法としては
■所管の役所に問い合わせる
■根拠法令を調べる
■専門家に相談する
などがあり得るでしょう。

 そして、合併のスケジュールを組むに際しては、許認可の洗い出しと必要な承認・認可・証明書の取得などを余裕をもって行えるような日程を設定することが重要です。  

【終わりに】 
今回は、組織再編(吸収合併)の手続きに関連して、許認可事業についての注意点をご説明しました。 

次回は、組織再編の手続き中、一般に最も気を遣う部分である債権者保護手続きについてご説明します。

 当事務所では、
・吸収合併、新設合併
・吸収分割、新設分割
・株式交換、株式移転
・事業譲渡
などの組織再編のご相談・ご依頼をうけたまわっております。

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司法書士法人第一事務所
司法書士 神沼 博充 

 

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神沼 博充

神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
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