第一事務所通信 Vol.20━ シリーズ「組織再編」(その4) ━「株式交付」の概要

第一事務所通信 Vol.20

━ シリーズ「組織再編」(その4) 

シリーズ「組織再編」(その4)

【はじめに】

 

本シリーズは、筆者が、組織再編の法務・登記を取り扱う中で気が付いた、実務上の注意点・重要点についての情報をご提供するものです。

 

「その1」では吸収合併の消滅会社の許認可事業の注意点ついて、「その2」では債権者保護手続の注意点、「その3」では吸収合併のスケジュール表を作成する上での注意点をまとめました。

 

今回は、前回までといささか毛色の異なる内容ですが、令和3年3月1日施行の改正会社法で新たに創設された組織再編である「株式交付」について、概要をご説明します。

 

 

【株式交付とは?】

 

株式交付は、既存の2社に親子会社関係を創設することを目的とする組織再編です。

 

具体的には、

・株式交付により親会社となる会社(A社)が、

・株式交付により子会社となる会社(B社)の株主から、

・B社の発行済株式の議決権の過半数を取得して、

・対価としてA社株式などを交付

する手続きです。

 

イメージは下図のとおりです。

 

 

    

 

 

【株式交換との違い】

 

既存の会社間に親子会社関係を成立させる制度には、株式交換がありますが、株式交付と株式交換との違いは次のような内容です。

 

・株式交付は、A社がB社を新たに子会社にするための手続きです。既に子会社であるB社を対象として実施することはできません。

(株式交換は、A社がB社を完全子会社にするための手続きです。既に子会社であるB社を対象として実施することも可能です。)

 

・株式交付は、A社・B社とも株式会社であることが必要です。

(株式交換は、A社は株式会社のほか、合同会社でも実施可能です。)

 

・株式交付は、A社が株式交付計画を作成して実施します。会社法上、A社・B社間の、契約関係は想定されていません。

(株式交換は、A社とB社が株式交換契約を締結して実施します。)

 

・株式交付では、A社においては、原則として株式交換契約を株主総会決議で承認する必要である一方、B社は株式交付の当事者ではないため、B社が株式交付計画を承認するという手続きは存在しません。B社の株主が、自らの意思に基づいてA社に対して自身の保有するB社の株式をA社に譲渡するのであって、B社の機関承認に基づいて、強制的にB社の株主がB社株式を手放すことにはなりません。

(株式交換では、原則としてA社・B社の両社が株式交換契約を株主総会で承認します。そして、株主総会の決議が可決されると、B社の株主は、株式交換に反対であっても、強制的にB社株式を手放すことになります。)

 

・株式交付では、B社の株主に対して交付する対価は、必ずA社の株式であることが必要です。ただし、株式と合わせて他の種類の財産(現金など)を対価とすることは可能です。

(株式交換では、対価をA社の株式以外の財産だけとすることも、無対価とすることも可能です。)

 

・株式交付では、A社がB社の新株予約権を承継する場合、A社がB社の新株予約権者になります。

(株式交換では、A社の新株予約権との引き換えとです。)

 

 

【株式交付の手続き】

 

<A社における手続き>

 

下記のような手続きです。

吸収合併などの組織再編の手続きと、第三者割当による新株発行の手続きを合わせたような手続きになっています。

 

⑴ 株式交付計画の作成

A社で株式交付計画を作成します。

定めなければならないのは、下記のような事項です。

・B社の商号・住所

・A社が株式交付に際して譲り受けるB社の株式の下限

(B社の発行済株式の議決権の50%超とする必要があります。)

・B社の株主に対して交付するA社の株式の数

・B社株式に対してA社株式をどのように割り当てるか。

・A社の資本金・準備金に関する事項

・A社が株式交付に際してA社株式以外の財産も交付するときはその内容など。

・B社の株主がA社に対して自己の所有する株式の譲渡をA社に申し込むことができる期限(申込期日)

・株式交付の効力発生日

 

⑵ 取締役会決議

 

⑶ 事前開示

 

⑷ 債権者保護手続

株式交付においては、債権者保護手続は、対価としてA社の株式以外の財産が交付される場合に必要になります。債権者保護手続の方法は、吸収合併の場合と同様です。

 

⑸ 株主通知

 

⑹ 株主総会決議

効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議が必要です。

ただし、簡易株式交付に該当する場合(株式交付に際し交付されるA社株式の数にA社の一株当たりの純資産額を乗じた額と株式交付に際し交付されるその他の財産の簿価との合計額が、A社の純資産額の5分の1を超えない場合)は、株主総会の決議は不要です。

(簡易株式交付の要件に適合する場合でも、A社に差損が生じる場合や、A社が非公開会社の場合は株主総会決議を省略できません。)

 

⑺ 申込み希望者(B社株主)への通知

A社は、申込み希望のB社株主に対して、

・A社の商号

・株式交付計画の内容

などを通知します。

 

⑻ B社の株主による譲渡しの申込み

⑺の通知を受けて、自己の保有するB社の株式をA社に譲渡することを希望する株主は、A社に対して申込みを行います。

申込に際してB社の株主は、

・氏名(名称)・住所

・譲渡を希望するB社株式の数

を記載した書面を提出します。

 

⑼ 申込期日

B社の株主がA社に対して株式の譲渡を申し込むことができる期限です。

もし、申込みを受けることができた株式の総数が、株式交付計画で定めたA社が譲り受けるB社株式の下限に達しない時は、株式交付をすることができません。

この場合、A社は既に申込みを行ったB社の株主に対して、株式交付をしない旨を通知することが必要です。

 

⑽ A社による割当ての決定

A社は、申込みがあったB社の株主の中から、A社の株式を誰に対して何株割り当てるかを決定します。

 

⑾ A社からB社株主に対する割当て通知

⑽で決定したA社株式の割当ての内容を、申込みを行ったB社株主に対して通知します。

 

⑿ 効力発生日

株式交付計画で定めた効力発生日が到来すると、

・A社は譲渡しを受けたB社株式の株主となります。

・B社株式を譲り渡したB社株主は、A社の株主となります。

 

⒀ 事後開示

 

上記のうち⑴~⑹・⒀は、吸収合併などの従来からある組織再編とほぼ同じ手続きです。

概要を「第一事務所通信 Vol.19━ シリーズ組織再編(その3)━」 に記載していますので、よろしければご一読ください。

 

一方、上記⑺~⑿が、他の組織再編にはない株式交付特有の手続きです。

A社が第三者割当により新株を発行する場合の手続きに似ています。

また、今回の株式交付でA社が取得するB社株式の全部を、特定のB社株主が譲り渡す契約(総数譲渡し契約)を締結する場合には、上記⑺~⑾の手続きは不要です。

 

<B社における手続き>

 

既述のとおり、B社は株式交付の当事者ではありませんので、法律上B社における手続きは特に存在しません。(現実には、事前にA社・B社が協議して株式交付を実施することになります。)

ただし、株式交付は、B社からすると自己の株式が譲渡される場面であるため、B社の株式に譲渡制限が設定されている場合には、通常の譲渡制限が付されている株式の譲渡と同様、

・株主からB社に対する譲渡承認請求

・B社の譲渡承認機関(取締役会など)による譲渡承認

が必要です。

 

 

【株式交付の活用方法】

 

株式交付の活用方法ですが、次のようなものが想定されています。

 

⑴ 上場会社によるM&A

上場会社であるA社が、B社の議決権の過半数を取得して、自社のグループ会社化するために株式交付をおこなうものです。株式交付制度が想定する、最もオーソドックスな使い方といえます。

B社の株主としては、B社株式の代わりに手に入るのが上場会社の株式であれば、売却も容易でありA社の業績によっては今後の値上がりも期待できるため、株式交付に応じるメリットがあります。

また、B社の経営者(X)がB社の株主でもある場合に、株式交付であればXが保有する株式の全部又は一部をA社に譲渡せずに残しておき、XのB社に対する支配力を一定程度維持するとともに、B社の業績についてXのコミットメントを確保することも可能です。

上場会社によるM&A目的と思われる株式交付としては、開示情報から数件の実例を確認できます。

 

⑵ 合弁の解消

・上場会社であるA社、X社、Y社の合弁会社B社(議決権比率はA社34%、X社33%、Y社33%)。

・Y社が業績悪化を理由にA社に対して合弁解消を打診。

A社がB社について株式交付を実施し、Y社が株式交付手続の中で保有するB社株式をA社に譲渡すれば、Y社はA社の株式を対価としてB社についての合弁から離脱することが可能です。

A社としては、合弁解消に現金が不要であることがメリットです。

また、Y社としては、合弁解消で直接現金を受けることにはならないものの、株式交付の対価として受け取るのが、上場株式であるA社株式であれば、すぐに現金化することが可能です。

 

 

【まとめ】

 

今回は、令和3年3月31日施行の改正会社法で創設された新しい組織再編である株式交付についてご説明しました。

 

まだ新しい制度であり、今後、実例が増えていくものと思われます。

 

また、既述のとおり、一般的には、上場会社が他の会社を子会社化するために使うことが想定されますが、今後、中小企業における活用方法も研究が進むものと思われます。

 

本稿を執筆するにあたっては、下記の書籍を参考にさせていただきました。(上記⑵の活用方法も同書籍記載のものです。)

株式交付の活用方法(想定事例)が秀逸な上、株式交付の概要・手続き・実務上必要な書式などがコンパクトにまとまっていますので、ご一読くださいませ。

金子登志雄 著 『「株式交付」活用の手引き』 中央経済社 2021年 

 

 

【終わりに】

 

当事務所では、

・吸収合併、新設合併

・吸収分割、新設分割

・株式交換、株式移転

・株式交付

・事業譲渡

などの組織再編のご相談・ご依頼を承っております。

 

自社や関与先企業様についてのご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

 

司法書士法人第一事務所

司法書士 神沼 博充

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神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
お問合せ・ご相談は下記までご連絡ください。
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