>>過去配信分はこちら 【はじめに】 財産の所有者が認知症などを原因として判断能力の低下・喪失に至ってしまった場合に起こりうる、「財産凍結」への対策として認知されるようになった家族信託(※1)。「家族信託」に関してお話ししてきた第一事務所通信ですが、家族信託のシリーズは今回が一旦の最後となります。 前回の第一事務所通信(2021/07/07配信:vol.15)で登場しましたが、家族信託は、当初の受益者が死亡した場合にも終了させることなく、「次の受益者」となる者を、予め契約で定めておくことが可能です。今回はその「受益者連続信託」についてみていきたいと思います。 ※1:「家族信託」は一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。 【今さら聞きづらい…後継ぎ遺贈型受益者連続信託のキホン】 「後継ぎ遺贈型受益者連続信託(※2)」とは… 委託者兼受益者(=「当初受益者」)の死亡によっても信託が終了せず、当初受益者が有していた受益権が当初受益者の死亡によって消滅し、他の者が新たな受益権を取得する定めがある信託、 とされています。 例えば、次のような場合で、後継ぎ遺贈型受益者連続信託の利用が想定されます。 ➊ 不動産を所有する高齢の父と、その妻、そして子がいる場合。認知症による財産凍結を防ぎ、父母の施設入居のタイミングがいつになったとしても、不動産売却ができるように、委託者兼受益者:父 / 受託者:子 としつつ、同時に、父が死亡した際、次に受益者となる者(=二次受益者)を「母」とする内容で、信託契約を結ぶ。 ➋ 子供がいない妻とその夫。妻死亡時、遺産の全てが夫に相続されることは構わないが、その後夫が死亡した際、夫の親族(=兄弟姉妹・甥姪など)に遺産が渡ってしまうことは納得ができないので、妻の親族に渡るようにしたい。委託者兼受益者:妻 / 受託者:妻の甥 としつつ、同時に、妻が死亡した際、二次受益者を「夫」とする内容で、信託契約を結ぶ。 ※2:ここでは、委託者と受託者との間の契約による信託を想定しています。 【家族信託を利用したい具体例③】 「不動産所有者である父。自身が健在の間は自身のために、死後は引き続き配偶者のために、長男に自宅不動産を管理してもらい、施設入所など、必要なときに長男の判断で、自宅を売却できるようにしておきたい」 ・父 :75歳。自宅不動産の所有者。自身の判断能力が低下した場合の不動産処分、そして自身が死亡した後、残される妻の生活を懸念している。 ・母 :79歳。不動産売却など、財産の管理・処分には疎い。 ・長男 :48歳。父母とは別居。 ・認知症になった場合にも、法定後見制度を利用せずに不動産の処分を可能としたいというニーズ ・ 自身の死後も、他の特定の者のために、財産の管理・処分を継続してほしいというニーズ ≪組成する信託の内容≫ ◆ 委託者:父 / 受託者:長男 / 当初受益者:父 / 二次受益者(=父死亡後の受益者):母 として、父と長男との間で信託契約を締結 ◆ 信託財産:自宅不動産、現金(※3) ◆ 信託事務の内容(※4):実家を父の居住の用に供させること、父の死亡後は母の居住の用に供させること、実家の管理・処分、金銭の管理・交付 ◆ 信託の終了:父及び母の死亡により終了 ◆ 残余財産の帰属権利者(※5):長男 ※3:受託者である長男において、固定資産税・都市計画税の支払いや、建物の修繕等を行うことを想定し、通常は不動産のみならず、現金も信託します。 ※4:信託契約等に基づき、受託者において行うことができる事務の内容を指します。 ※5:信託の終了時、受託者が管理していた信託財産を受け取ることになる者を指します。 ・父を委託者兼受益者、長男を受託者として、父の死亡によって信託が終了する「一代限り」の財産管理型信託を契約し、父死亡時には帰属権利者として長男が実家を取得。その後は母の介護の必要に応じて、長男が自分の名義となった実家不動産を必要に応じて売却し、売却によって得られた金銭を母の介護のために充てる…という方法も考えられなくはないですが、実家不動産を売却する場合、これは長男にとってのマイホームではないため、売却時の税金に関する居住用財産の3,000万円の特別控除の特例を利用できず、取得費を証明する資料を揃えることができない場合には、取得費が5%しか計上することが許されず、納税対象となってしまいます。 ・他方、家族信託を利用し、受託者によって不動産売却が行われた場合、居住用財産の3,000万円控除は受益者について判断しますので、母が二次受益者として受益権を有する間に売却した場合にも、特例を利用することが可能です。 —-【もう一歩前へ!家族信託】—————————- Q.委託者が死亡した際、信託契約書上、「委託者の地位」はどのように扱ったらよいでしょうか。「委託者の死亡によって消滅する」として問題はないのでしょうか。 A.信託財産に不動産がある場合、信託終了時の税金に影響が出る可能性があるため、要注意です。 信託が終了した場合、受託者名義となっている不動産を、帰属権利者(または残余財産受益者)に名義変更する必要があり、その場合、「流通税」と呼ばれる次の税金が原則として発生します。 ①登録免許税 固定資産税評価額の2% ②不動産取得税 固定資産税評価額(※宅地については固定資産税評価額の1 /2)の4%(※令和6年3月31日までの土地または住宅の取得については3%) 他方、「委託者の地位」についてです。信託開始後は、受託者と受益者ばかりが取り上げられ、影が薄くなりがちな「委託者」ですが、 ・受益者との合意による受託者の解任権 ・受益者との合意による新受託者の選任権 ・信託終了時の法定帰属権利者 ・信託事務の処理の状況等に関する報告請求権 など、委託者は信託開始後も様々な権利を有しており、これら委託者に認められた権利を包括的に行使することができる地位、それが「委託者の地位」と呼ぶことができようかと思います。そして、信託契約に基づく委託者の地位は委託者の死亡によってその相続人に承継されると考えられています。 そうすると、後継ぎ遺贈型受益者連続信託においては、委託者兼受益者が死亡した際、引き続き二次受益者が登場して信託が継続するにもかかわらず、委託者の相続人が新たな委託者として登場してしまい、この新たな委託者がこれまでこの信託に全く関わりを持っていない者であり、信託に非協力的である場合には、厄介な状況となってしまいます。 そこで、委託者の地位についての、「信託契約によって第三者に移転させることができる」という性質や、「委託者に相続が発生した場合に相続人に承継させない、という定めをおくことができる」性質を利用して、「委託者に相続が発生した際、委託者の地位は消滅する」という信託契約書の文言がよく用いられていました。 ところが、不動産取得税や登録免許税には、それぞれ非課税になる場合や、軽減される場合として、次のような規定が設けられています。 ◆不動産取得税が非課税となる場合(地方税法第73条の7第4項) ・次の全ての要件を満たす場合 ①信託の効力発生時から委託者のみが信託財産の受益者であること ②信託終了に伴い信託財産である不動産を取得するのが、委託者、または委託者から相続した者である ◆登録免許税に軽減税率が適用される場合(登録免許税法第7条第2項) ・次の全ての要件を満たす場合 ① 信託の効力発生時から委託者のみが信託財産の受益者であること ②信託終了に伴い信託財産である不動産を取得するのが、委託者の相続人であること ※「相続による移転」とみなされ、登録免許税が2%ではなく、0.4%となります。 このように、信託終了時の不動産名義変更において、不動産取得税が非課税になり、また登録免許税に軽減税率が適用されるためには、「委託者のみが受益者であったこと」が要件とされており、信託の途中で委託者の地位が消滅してしまっては、この要件を満たしているのか否かを確認するできなくなってしまうため、結果、信託終了時に不動産を取得するのが委託者の相続人である場合にも、これら非課税や軽減税率適用の恩恵を受けることができなくなってしまう恐れがあります。 それゆえ、委託者の死亡時、委託者の地位は消滅させるのではなく、受益権とともに移転するものとし、信託終了時には、帰属権利者にその地位が移転すると定めるのがよいと考えられます。 ———————————————————— 【ご案内】 司法書士法人第一事務所・行政書士第一事務所では、家族信託の組成・信託契約書の作成・信託登記のほか、 ・遺言書作成 ・不動産生前贈与 ・任意後見契約書、死後事務委任契約書の作成 などの認知症対策・相続対策を通じて、皆様が幸せな生活を送るためのお手伝いをしています。 ご自身のことやご家族のこと、関与先様のことでご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。 司法書士法人第一事務所 司法書士 工藤 皓也 |
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