【はじめに】
法務局での自筆証書遺言書保管制度が開始されてから約1年半が経過しました。
本制度を簡単にまとめると、「遺言者本人が手書きで作成した遺言書を法務局へ預け、本人の死亡後、相続人の請求によりその遺言の内容の証明書を取得できる」というものです。
制度の運用開始から時間が経ち、賛否両論様々な記事を目にすることが増えてきました。
そこで今回は、本制度を含めた遺言書の作成・保管方法についてご説明いたします。
遺言とは、自身が生涯をかけ築き上げてきた財産の帰属先を決定したり、お考えや思いを遺された方々へ伝えるための最後の意思表示です。
遺言がない場合、本人の死後、遺産分割は相続人全員の協議に基づき進めることとなり、相続手続き(不動産や自動車の名義変更、銀行口座解約手続き等)は相続人全員の協力なしに進めることはできません。
一方、遺言がある場合には、遺産分割は原則遺言の内容に従うこととなります。したがって、相続手続きの前提として遺産分割協議が不要となるため、煩雑な手続きを回避でき、また相続人間での紛争の防止といった効果も期待できます。
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
更に保管方法も考慮した場合、採り得る選択肢は以下の通りです。
①自筆証書遺言を作成し、自宅等で保管
②自筆証書遺言を作成し、法務局で保管(自筆証書遺言書保管制度の活用)
※原本とデータが保管されることとなります。
③秘密証書遺言を作成し、自宅等で保管
④公正証書遺言を作成し、公証役場にて保管
では、作成方法も含め順番に説明致します。
【遺言作成・保管方法について】
①②で登場しました自筆証書遺言、仰々しい呼び名ですが、最もポピュラーな、手書きで書く遺言のことです。一時期は各種メディアでも多く取り上げられていたことから、ご存知の方も多いかもしれませんが、実は民法上の成立要件は4つしかありません。成立要件は以下の通りです。
- 全文を手書きすること(財産目録を添付する場合は手書きでなくともOK)
- 作成日を明記すること
- 遺言書の氏名を明記すること
- 押印すること(認印でOK)
上記の通り、自筆証書遺言は成立要件がシンプルである一方で、遺言者の選択した保管方法(場所)によって、本人の死後、相続人等が取る手続き方法が変わります。
①自筆証書遺言を自宅等で保管していた場合
遺言者本人にとって、金銭的にも労力的にも一番負担がかからない方法は、やはり自宅での遺言書保管かと思います。その一方で、本人の死後、相続人に最も負担がかかる保管方法が自宅での保管です。
実は、自宅にて遺言書の保管を行っている場合には、遺言者の死後に遺言書を発見した相続人等は、家庭裁判所に遺言書を提出し、その「検認」手続きを請求する必要があります。
検認とは、原則、相続人全員の立会の下、遺言書の状態や内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。申立にあたっては、故人の出生から死亡までの連続した全ての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、住民票等を用意する必要があり、かなりの手間を要する場合があります。
自筆証書遺言が自宅で発見された場合、検認を経た後でなければ、遺言書を用いた相続手続き(不動産や自動車の名義変更、銀行口座解約手続き等)はできません。
しかし、検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではないため(自筆証書遺言成立要件や内容の確認はしてくれません。)、検認を行ったからと言って、遺言書が相続手続に使用できるとは限りません。
②自筆証書遺言を法務局で保管していた場合
法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合、遺言書を預ける際に遺言書保管官の外形的なチェックが受けられるため、成立要件について無効となる心配はありません。また、遺言書の偽造・変造が行われる可能性がないため、検認の必要もありません。
相続人等は、遺言者の死亡後、法務局に対し、データによる遺言書の閲覧や、遺言書情報証明書の交付を請求し、相続手続き(不動産名義変更等)に着手することとなります。
また法務局では、遺言書の保管のみでなく、遺言者死亡時には相続人への通知(遺言者1名につき1名のみ)を行う体制も整えており、自筆証書遺言での相続手続きにおいて大きな役割を担っています。
以上の点から①より安心な法務局での保管制度ですが、やはりデメリットもあります。
法務局での遺言書保管申請手続きは、専門家含め他人に手続きを任せることはできず、必ず遺言者本人が申請を行う必要があります。したがって、「体調が悪くて…」「足が悪いので…」といった様々な理由で自ら法務局へ移動できない場合には、申請手続き自体を諦めるほかありません。
また、法務局では遺言書の保管にあたり、遺言作成にあたり、遺言の内容についての相談には対応していないという点にも注意が必要です。
③秘密証書遺言を自宅等で保管していた場合
秘密証書遺言とは、遺言者が「遺言内容を誰にも知られたくない」という場合に利用される遺言方法で、実際にはほぼ利用されていないのが現状です。
作成方法は、まず、遺言者が、遺言の内容を記載した書面(ワープロ等で作成可能です。)に署名押印をし、これを封筒に入れて封印の上、公証人及び証人2名にその封書を提出します。その後、公証人は「提出日」「封筒の中身が遺言者の遺言書である旨」「遺言者の氏名と住所」を封書に記載し、遺言者、証人それぞれが署名押印し作成します。
以上の手続を経由することにより、その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき、かつ、遺言の内容を誰にも明らかにせず、秘密にすることができます。
しかし、秘密証書遺言は、遺言者自身が保管する必要があるため、偽造・変造のリスクがないとは言い切れず、①同様に検認手続きを行う必要があります。
検認回避のため法務局での保管を…としたいところですが、秘密証書遺言は、法務局での保管制度を利用できません。作成に手間がかかる一方で、遺言者の死後の手続きはさほど楽にはならない秘密証書遺言。利用数が少ないことにも頷けます。
また、秘密証書遺言の作成のデメリットとして、公証人のチェックが受けられないことが挙げられます。これは①②にも共通して言えることですが、実際に相続手続きを行うにあたっては、民法上の形式的な遺言成立要件のほか、本文内容や文章表現の正確さも重要となります。形式的な要件が成立していても、内容等の問題から、名義変更・解約に応じてもらえないといったケースは数多くございます。法務局での自筆証書遺言保管制度は、保管された遺言書の有効性を保証する制度ではないため、遺言の内容に関する相談は、事前に専門家に相談・依頼をする必要があります。
④ 公正証書遺言を作成し、公証役場にて保管
①~③のデメリットを解消する遺言方式として、公正証書遺言があります。公正証書遺言は、公証役場にて、公証人及び証人2名以上の立ち合いのもとで作成する遺言です。公証人は、裁判官や検察官、弁護士経験者といった法曹資格者等が務めており、当然、方式の不備で遺言が無効になる恐れはなく、法的に安定した内容の遺言を作成できます。日本公証人連合会の言葉を借りれば、「公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べて、安全確実な遺言方法である」といえるでしょう。
公正証書遺言は、遺言者本人による署名押印を除き、公証人が全文を作成するため遺言者が自書する必要はありません。また、公証役場にて原本が保管されるため偽造・変造の恐れはなく、法務局における自筆証書遺言保管制度と同様、検認の必要がありません。
その上、公証役場に対しては出張での作成を依頼できるため、自宅や病院、高齢者施設等でも作成することができます。
しかし、こうした高い法的安定性とサービスを享受できる分、公正証書遺言の作成にはやはりコストが掛かり、公証役場への法定の手数料のほか、戸籍等の証明書類・財産資料発行手数料といった費用が発生いたします。また、公証役場との打ち合わせや各種資料の手配をご自身で行う必要があるため、作成までには多少の労力を要することは否めません。
以上、①~④まで、遺言の作成方法についてご説明させて頂きました。
いずれの方法にも、手軽さや法的安定性の観点から一長一短あり、中々どの方法が一番とは定めにくいものではあります。しかし、当事務所ではやはり法的安定性の観点から、公正証書遺言の作成を強く推奨しております。
また当事務所では、作成にあたってのご不安の解消、お手間の軽減のため、内容の決定から原案作成・公証人の方とのやり取りや段取りの設定まで、遺言作成にかかわる全てをお手伝いさせて頂いております。
遺言作成に関するご相談の他、
・相続手続
・生前の相続対策
・認知症対策
など各種業務のご相談・ご依頼を承っております。
お困りごとなどございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
行政書士法人第一事務所
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