第一事務所通信 Vol.04 ━ 「株式の分散」への対処について(その1) ━

「株式の分散」への対処について その1

【はじめに】

中小企業のM&Aが活発化しています。

株式会社レコフデータ(下記URL)によると、M&Aの件数は近年大きく増加傾向にあります。

1990年には700件程度であったものが、2000年代に入ってから急増し、途中一時減少したものの、2019年には4000件超となっています。

内訳を見ると、日本企業同士のM&A(IN-IN)を中心に増加しています。 https://www.marr.jp/genre/graphdemiru

中小企業においては、後継者不足が深刻化する中で、M&Aが有力な事業承継(第三者承継)の手段であるとの認知が広まったこと、政策の後押し、手続きの担い手の充実などの要因によるものと思われます。

弊所でも、中小企業のM&Aに関連して、契約書その他の書面の作成・法務・登記などのご依頼を頂く機会が増えています。

中小企業のM&Aは、現在の株主が買い手(買収者=事業の承継者)に対し、承継の対象となる会社(対象会社)の株式を譲渡(売買)する方法で行われることが一般的です。

そして、通常、買い手は対象会社の発行済株式の全部を取得することを希望します。

買い手のこの希望を実現しようとすると、対象会社の既存の株主全員が、株式を譲渡する必要が発生します。

対象会社の株主が社長1人だけであれば、この点について問題は発生しません。

しかし、対象会社に株主が複数いて(「株式の分散」)、

➊連絡が取れない株主がいる。 

➋譲渡に応じない株主がいる。

等の場合には、「全株取得」という買い手の希望がかなえられず、譲渡価額が下落したり、買い手が買収意欲を失ってしまったりしかねません。

特に、平成2年の商法改正以前は、発起人(会社設立時の株主)が7名以上必要とされていたことから、それ以前に設立された会社において、株式の分散が生じがちです。 

また、福利厚生の一環として、役員や従業員に株式を保有させている会社も同様です。

歴史のある会社や従業員想いの会社が、株式の分散のために、せっかくの事業承継の機会を失うこととなればとても悲しいことです。

このような場合、どういった対処が可能でしょうか。

今回のシリーズでは、株式の分散とこれにより発生する上記➊➋のような問題への対処方法にとして、下記のような内容ついてご説明します。

⑴すでに株式の分散が発生してしまっている場合への対処

①所在不明株主の株式売却制度

 ②いわゆる「スクイーズ・アウト」(締め出し)の手法

⑵今後株式の分散が発生しないようにする予防策

①定款の変更(相続人に対する売渡請求など)

 ②種類株式の発行(取得条項付株式など)

本号では⑴①を、次号以降⑴②~をご説明します。

【所在不明株主の株式売却制度】

所在不明株主の株式売却制度」は、株主中に行方不明の者がいる場合に、一定の要件が満たされていることを前提に、行方不明者の保有する株式を売却し、行方不明者を株主でなくする手続きです。

M&Aの対象会社に行方不明株主がいるために買い手に全株を取得させられない懸念がある場合や、事業承継の前提としての株式の集約、会社の事務負担の軽減のためなどに行うことが想定されます。

【0.要件】

「所在不明株主の株式売却制度」を利用するには、行方不明の株主について以下の要件がいずれも満たされていることが必要です。

①当該株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達していないこと。 

②当該株主が5年以上継続して配当金(剰余金の配当)を受領していないこと。

①の要件は、株主総会の招集通知などが、丸5年以上継続して到達していないことが必要です。

この通知などは、行方不明株主の株主名簿に記載された住所宛に送ったもので差し支えありません。(会社の方で、株主の現住所を突き止める必要はありません。

5年間継続して到達していない」ことについては、後述の裁判所に対する申立時に、証拠資料(株主名簿の住所宛に発送した郵便物の返戻封筒など)の提出が求められます。

②の要件は、配当金が受け取られない場合の他、無配であった場合を含むとされています。

①同様証拠資料の提出が求められます。

【1.取締役会の決議】

上記【0.要件】が満たされていることを前提に、行方不明株主の株式を売却することについて取締役会の決議を行います。

また、下記【3.売却】において、行方不明株主の保有株式を自社で買い取る場合、買い取る株式の数と買取金額の総額も決議する必要があります。

【2.公告・催告】

売却に対して異議があれば3か月以内に申し出てください。」という内容を、定款所定の公告方法で公告します。

また、行方不明株主に宛てて同じ内容の手紙を送ります。

【3.売却】

行方不明の株主や利害関係人から異議がなく3か月を経過すると、対象の株式を売却することができます。

売却は、裁判所に申立てをして競売によって行うのが原則ですが、非上場株式のような市場価額のない株式の場合、裁判所の許可を得て、競売以外の方法によって売却することも可能です。

売却が競売以外の方法による場合、会社が買主となることも可能です。

【4.代金の支払い】

買主は売主に対して代金を支払う必要がありますが、そもそも売主である株主は行方不明であるため、代金を受け取ってもらうことは難しいことが想定されます。 その場合は、代金を供託するなどするのが一般的です。

【5.まとめ】

以上のように、「所在不明株主の株式の売却制度」は、手続き自体はそれほど複雑ではありません。

ただし、【2.公告・催告】で最低3か月が必要ですし、その他の手続と合わせると半年程度の時間を要します。

そのため、M&Aの前提として行う場合、この期間を計算に入れてM&Aのスケジュールを組むことが必要です。

さらにハードルが高いのは、【0.要件】です。 

 特に①5年間継続して通知・催告が届かない」は、株主総会の招集通知などを欠かさず行っていて、かつその証拠が残っていることが必要です。

定時株主総会やその招集通知などの法定の手続が行われていない会社が多い現状では、クリアが難しい要件です。

M&Aなどの「いざという時」に取れる手段を広げるためにも、特に行方不明の株主がいる場合などには、日ごろから定時株主総会や招集通知など、最低限の法務はしっかり行っておくことが重要です。

①②の要件を満たさず本制度を利用することができない場合は、次回以降ご説明するスクイーズ・アウトの手法によることになります。

【ご案内】

今回は、「『株式の分散』の対処について」の第1回目として、所在不明株主の株式売却制度についてご説明しました。

次回は、いわゆる「スクイーズ・アウト」の手法についてご説明します。

当事務所では、株式の分散への対応の他、M&Aに関連して、 

・契約書や各種書面の作成

・法務のアドバイザリー

・登記 

 など各種業務のご相談・ご依頼を承っております。

自社・関与先企業様についてのご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

司法書士法人第一事務所

司法書士 神沼 博充

The following two tabs change content below.

神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
お問合せ・ご相談は下記までご連絡ください。
☎011-231-3330(代表) 0120-050-316(債務整理専用フリーダイヤル)
kanuma@hk-plaza.co.jp

コメント

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です