【前回までのまとめ】
前回までに、役員のなり手不足に対応するため、下記のように会社の機関設計を変更(機関設計のミニマル化)することが有効であること、機関設計のミニマル化の手続き(定款変更の手続き)が、下記のような流れになることをご説明しました。
<機関設計の変更(機関設計のミニマル化)>
・変更前:★1「株主総会+取締役会+監査役」
・変更後:★2「株主総会+取締役1名以上」
※本項は、★1★2とも株式の譲渡制限に関する規定が存在する会社であることを前提に記載しております。
<機関設計のミニマル化の手続き>
①担当部署(総務部など):★2に対応する変更後の定款案を作成
⇒(①′部署責任者などの決裁)
②取締役会:株主総会の招集を決定(・①の定款変更案を承認)
③株主総会の招集
④株主総会開催:①の定款変更案を承認
⑤登記・関係先へ提出等
今回は、本シリーズの最終回として、機関設計のミニマル化を行う場合の具体的な定款変更の内容についてご説明します。
【機関設計のミニマル化のための定款変更の内容】
機関設計のミニマル化のための定款変更の核心は、定款中の取締役会・監査役を置く旨の規定を削除することです。
★1の会社の定款中には、「当会社に取締役会を置く。」・「当会社に監査役を置く。」 といった規定が置かれていますので、これらを削除します。
定款中の2つの条文を変更するだけですので、ここまでであれば難しいことは何もありません。
しかし、これで機関設計のミニマル化のための定款変更が完了かというと、そうではありません。
★1の定款中には、通常「取締役会」・「監査役」について規定している条文や、これらが存在することを前提とする条文が多数存在しますので、全て変更・削除することが必要です。
また、条文や章のタイトルに「取締役会」・「監査役」が含まれている場合は、これらにも対応が必要です。
代表的・重要なものとしては、下記の条文が挙げられます。
・株式の譲渡制限に関する規定
・代表取締役の選定方法
・取締役の定数
【株式の譲渡制限に関する規定】
★1の会社の定款の「株式の譲渡制限に関する規定」は、通常下記のようになっています。
「当会社の株式を譲渡によって取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」
機関設計をミニマル化すると、会社の機関として取締役会がなくなるため、上記の株式の譲渡制限に関する規定を変更する必要があります。
変更方法としては、
「当会社の株式を譲渡によって取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。」
とするのが一般的です。
また、株主の人数や構成によっては、
「当会社の株式を譲渡によって取得するには、代表取締役の承認を受けなければならない。」
とする場合もあります。
※取締役会より下位の機関を承認機関とすることは予定されていないという見解や、譲渡人である株主が代表取締役であると、自らの譲渡を自ら承認することは忠実義務(会社法355条)違反に当たるとの見解もありますが、登記実務では許容されています。
【代表取締役の選定方法】
★1の会社の定款では、通常代表取締役の選定方法を、
「当会社は、取締役会の決議によって、取締役の中から代表取締役を選定する。」
などと、取締役会の決議によると定めています。
機関設計をミニマル化すると、会社の機関として取締役会がなくなるため、上記の代表取締役の選定方法に関する規定を変更する必要があります。
変更後の代表取締役の選定方法は、
・「取締役の互選」
・「株主総会の決議」
のいずれかにするのが一般的です。
※定款に直接代表取締役を規定する方法もありますが、実例は多くありません。
変更後の定款の例は、
・「当会社に取締役2名以上いるときは代表取締役を1名置き、取締役の互選によって定める。」
・「当会社に取締役2名以上いるときは代表取締役を1名置き、株主総会の決議によって定める。」
などとなります。
【取締役の員数】
★1の会社の定款では、取締役の員数について
「当会社の取締役は3名以上とする。」
などと定めているのが通常です。
取締役会のある会社(★1)では、法律上取締役が3名以上いることが必要であり、これが定款に明示されているものです。
一方、ミニマル化後の★2の会社では、法律上の取締役の最低員数は1名です。
しかし、法律上の最低員数が1名であっても、定款で「3名以上」と規定していると、現に在任している取締役が3名を下回ることはできません。
(★2の機関設計に定款を変更したとしても、「取締役3名以上」という規定のままでは、社長以外の2名の取締役が退任することはできません。)
従って、名目的取締役を作らないという機関設計のミニマル化の目的を達するためには、取締役の員数についての定款の規定を、法律上の最低限の員数に一致させる必要があります。
変更後の取締役の員数に関する定款規定は、
「当会社の取締役は1名以上とする。」
とするのが通常です。
※1名「以上」ですので、当面は社長以外の取締役に留任してもらうことも可能です。
【変更前後の定款例】
★1「株主総会+取締役会+監査役」
から
★2「株式会社+取締役1名以上」
へ機関設計を変更する場合の定款変更の例が、冒頭のダウンロードボタンからダウンロード可能ですので、ご活用ください。
【機関設計のミニマル化後の会社の運営】
機関設計をミニマル化すると、会社の運営はどのように変わるでしょうか。
代表的なものを下記に記載しました。
⑴業務執行の決定
会社の毎日の業務に関する意思決定のことを、「業務執行の決定」といいます。
業務執行の決定は、★1の会社では、取締役会の決議で行います。
★2の会社では、取締役の過半数の一致で行います。
取締役が社長のみの場合、社長1人で業務執行の決定を行うことが可能です。
★2の場合、株主総会の決議で業務執行の決定をすることも可能です。
⑵株主総会の権限
★1の会社においては、株主総会は、会社法又は定款で定められた事項に限り、決議をすることができます。
★2の会社においては、株主総会は一切の事項について決議をすることができるとされています。
つまり、機関設計のミニマル化を行った後は、上記⑴の業務執行の決定も含めて、あらゆる事項を株主総会の決議で決定することが可能となります。
株主総会の権限が変わることに関連して、司法書士の目線で重要な事項は、利益相反行為の承認機関です。
★1の会社においては、利益相反行為の承認は、取締役会の決議で行いますが、★2の会社においては株主総会の決議によって行います。
社長・会社間の売買契約や、社長の借入れに対する会社による(連帯)保証・担保提供などの際の承認機関が変わる結果、法務局(不動産登記の添付書類)や金融機関に提出する利益相反行為承認の議事録も、株主総会議事録になりますので注意が必要です。
⑶株主総会の招集
※本項では書面による議決権行使・電磁的方法による議決権行使を認めないことを想定しております。
★1の会社では、株主総会の開催日の1週間より前に書面で招集通知を発送する必要があります。
招集通知には、会議の目的事項(議題)を記載する必要があり、一定の場合には議案の概要を記載する必要があります。
★2の会社では、定款に規定することで、招集通知の期限を株主総会の開催日の1週間前より短縮可能です。
また、招集通知を書面で行う必要はなく、口頭・電話・Eメール・メッセンジャーアプリ(LINE、ChatWorkなど)などで行うことが可能です。
さらに、招集通知に際して議題や議案の概要を明示することも不要です。
⑷監査について
機関設計のミニマル化により、会社から監査役がいなくなりますので、次回からは定時総会に先立って計算書類(貸借対照表・損益計算書など)について監査役の監査を受ける手続きは不要となります。
【まとめ・ご案内】
2021年3月17日から配信を開始した『第一事務所通信』ですが、第1号~第3号では、役員のなり手不足への対応としての「機関設計のミニマル化」についてご説明してまいりました。
特に中小企業において、人手不足・後継者不足が深刻化しています。
機関設計のミニマル化を含めて、適切な法的対応を取ることにより、これらの問題に関連して発生するリスクを未然に回避したり、不適法な状態を脱したりすることが可能となる部分があると考えております。
次回以降も、中小企業の人手・後継者不足に関連するお役立ち情報を、テーマを設定して発信しようと考えておりますので、ご一読いただければ幸いです。
当事務所では、機関設計のミニマル化も含めた機関設計や、株主総会・取締役会の開催のお手伝いに力を入れています。
自社・関与先企業様についてのご相談がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
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