シリーズ『総務担当者のための はじめての合併』第2回 最初に確認するべき事項

シリーズ『総務担当者のための はじめての合併』

第2回 最初に確認するべき事項

 

このシリーズは、自社又は自社のグループ会社が合併することになり、実務を担当することになった総務担当者の方に向けて、合併の法務手続きをご説明するものです。

本シリーズの前提などについては、『第1回 はじめに(対象・前提など)』(シリーズ『総務担当者のための はじめての合併』 第1回 はじめに(対象・前提など))をご確認ください。

 

 

2 最初に確認するべき事項

⑴ スケジュール表の作成
さて、内部的に合併を行うとの意思決定がなされたら、まず何をするべきでしょうか?
多くの場合、最初に合併手続きのスケジュール表作りを行います。

合併期日(法律上A社とB社が1つになる日)にむけて、「何をいつまでに実施するべきか?」をスケジュール表に落とし込むことで、関係者の認識を共通にしたり、「いつまでに●●の準備をしなければならない。」に対する現在の進捗状況を確認したりするのに役立ちます。

 

⑵ スケジュール表を作成する前に確認するべき事項
ただ、実務的には、この合併のスケジュールに大きな影響を及ぼす事項がいくつかありますので、スケジュール表の作成に先立って(又は同時並行して)、これらを確認するようにします。具体的には下記の事項です。

 

① A社・B社は、決算公告を行っているか?
A社・B社が、直近の事業年度の決算公告を行っているかを、確認してください。

合併をするかどうかにかかわらず、法律上、全ての株式会社には、毎年定時株主総会で決算書類を承認したら、遅滞なく貸借対照表(の要旨)を、定款・登記簿に記載された公告方法に従って、公表することが義務付けられています。これを「決算公告」といいます。

一方、合併の手続きの中で、一般に最も時間がかかるのが「債権者保護手続き」という手続きです。債権者保護手続きは、A社・B社の債権者に対して、「合併に異議があれば申し出てください。」と呼びかける手続きです。債権者保護手続きでは、法律で決められた内容を、官報に掲載したり債権者に手紙で送ったりする必要があります。(債権者保護手続きの詳細は、次回以降ご説明の予定です。)

そして、上記の「法律で決められた内容」の中には、「最新の決算公告がどこに掲載されたか?」があります。つまり、債権者保護手続きの官報や手紙には、最新の決算公告が掲載された媒体の名称・日付・ページ数等を記載する必要があります。

したがって、遅くとも債権者保護手続きを行うまでに決算公告が行われていないと、有効に債権者保護手続きを行ことができず、ひいては合併を行うことができません。

上記のとおり、決算公告はすべての株式会社を対象とした法律上の義務ではあるものの、多くの会社で実行していないのが実情です。合併を行うことになったA社・B社が決算公告を行っていない場合、合併の前提として決算公告を行うことを織り込んだスケジュールを作成する必要があります。

 

② A社・B社の公告方法は?債権者の数は?
上記①とも関連しますが、A社・B社の債権者が多数で、債権者保護手続きのうち、手紙の発送が事実上不可能である・大きな手間がかかる等の場合には、事前にA社・B社の公告方法を変更した方がよい場合があります。(詳細は次回以降ご説明します。)
この場合には、この公告方法の変更手続きも、スケジュールに織り込むようにする必要があります。

 

③ B社は株券発行会社か?実際に株券を発行しているか?
B社が株券発行会社かどうかを、確認してください。
株券発行会社であるかどうかは、B社の定款・登記簿を見れば確認することができます。定款や登記簿に「当会社の株式については、株券を発行する。」といった記載があれば株券発行会社です。

B社が株券発行会社である場合、次に、B社は実際に株券を発行しているかどうかを、確認してください。定款や登記簿に「株券を発行する。」との記載があっても、現実には株券を発行していないこともありますので確認が必要です。

もし、B社が株券発行会社であり、現実に株券を発行している場合、B社の株主に対して「株券提供手続き」を取るか、B社の株主から「株券不所持の申出」を行ってもらう必要があります。

「株券提供手続き」とは、B社がB社の株主に対して「株券を会社に提出してください。」という内容を公告するとともに手紙で送る手続きです。株券提供手続きは、合併期日の1か月以上前に公告を掲載するとともに株主へ手紙を発送する必要があります。
一方、「株券不所持の申出」とは、B社の株主が会社に「私は株券を所持していることを希望しません。」と申出する手続きです。株券不所持の申出は、株券が発行されている場合、株券を提出しておこなう必要があります。

株券提供手続きと株券不所持の申出は、会社から株主に対して「株券を提供してください。」と呼びかけるのか、株主の側から会社に対して「株券は不要です。」と申し出るのかの違いと捉えていただいて結構です。

B社の株主が少数で、株主全員から株券不所持の申出をしてもらうことが可能であれば、株券不所持の申出を行ってもらう方が優れています。なぜなら、株券提供手続きには公告費用・郵送料がかかるほか、公告の掲載・手紙の発送から合併期日までに1か月を空ける必要があるため時間的制約を受けるからです。
株券不所持の申出であれば、費用は掛かりませんし、B社の株主から株券と申出書を提出してもらうだけですので、最短1日で実行可能です。

本例は、B社はA社の100%子会社(=B社の株主はA社1名のみ)という想定ですので、B社が株券発行会社で現実に株券を発行している場合、A社から株券不所持の申出を受けるのが現実的です。
いずれにしても、B社が株券発行会社で現実に株券を発行している場合、株券提供手続き又は株券不所持の申出をスケジュールに織り込むようにすることが必要です。

ただし、現在は、株券は不発行が原則であることから、本シリーズでは、B社は株券不発行会社(定款・登記簿に「株券を発行する。」との記載がない会社)であるとの前提でご説明します。

 

④ B社は許認可事業を行っていないか?
吸収合併消滅会社であるB社が許認可事業を行っていないかを、確認してください。
許認可事業を行っている場合、さらに、その許認可の性質を確認する必要があります。

許認可の性質には、以下のようなものがあります。
ア)合併によりA社に承継することが出来ないもの。
イ)合併についての行政庁の認可等があれば、A社に承継することが出来るもの。
ウ)合併についての行政庁の認可等がなければ、合併の効力が発生しないもの。

上記のア)であれば、いずれにしても許認可を承継することが出来ないので問題になりませんが、イ)の場合でA社に許認可を承継したい場合や、ウ)の場合は、速やかに合併のついての行政庁の認可等を受けるよう動き出しが必要です。(行政庁の合併についての認可等を取得するには、最低でも1か月程度を要するようです)

管轄の行政庁に連絡を取り、合併についての認可等の取得の手続きについて、問合せを行うとともに、速やかに認可等の申請の手続きをおすすめください。また、認可等の取得までどれくらいの期間を要するかの確認も行って、スケジュールに織り込むようにしてください。

本シリーズではB社は許認可事業を行っていないとの前提でご説明します。

以上

 

以上、シリーズ『総務担当者のための はじめての合併』の第2回として、最初に確認するべきことをご説明しました。

次回は、第3回として、合併の「スケジュール表の作成」をご説明します。

司法書士法人第一事務所は、合併・会社分割・株式交換・株式移転等の組織再編の法務・登記に積極的に取り組んでいます。

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神沼 博充

(かぬま ひろみつ)
司法書士
司法書士法人第一事務所で会社法務・債務整理を担当しています。
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