第一事務所通信 Vol.23━「外国人材の採用」における注意点(その3) ━

【はじめに】

前回の記事では,外国人の資格外活動について取り上げました。資格外活動の場合はいわゆる単純労働(レジ打ち,案内業務などの単純な接客,清掃など)を行うことが出来たのですが,就労を目的とする在留資格(=正社員で外国人を採用する場合)では単純労働は原則認められていません。一言で就労を目的とする在留資格といってもいくつか種類がありますが,今回は,これらの在留資格で最も人数が多い「技術・人文・国際業務」を例にあげて,「どのような外国人が」「どのような条件で」就労できるのかを中心にご説明していきます。

 

【在留資格「技術・人文・国際業務」とは?】

 この在留資格は,もともと平成26年までは「人文知識・国際業務」と「技術」の二つに別れていた在留資格を統合したものです。前者は文系,後者は理系と思っていただければわかりやすいです。行政書士や弁護士,入管職員ら在留業務に関わる方は「技人国(ぎじんこく)」と略することが多いです。この記事でも以降は「技人国」と略して表記させて頂きます。

 要件は以下の通りです(出入国在留管理庁HPより引用)

本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)。
該当例としては,機械工学等の技術者,通訳,デザイナー,私企業の語学教師など。

 この要件を,まず分解してみていきましょう。

本邦の公私の機関との契約に基づいて
 これは,雇用契約又は業務委託契約を指します。派遣契約も可能です。

理学,工学その他の自然科学の分野
 理系の分野という意味です。

法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業
 文系の分野という意味です。

外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務
 文系の中でも「通訳・翻訳」「語学の指導」などの外国語を使う業務,「広告・宣伝」「商取引」を外国と行う業務を指します。

一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。
お気づきの方も居られるかもしれませんが,この在留資格は範囲が広い(就ける職種が多い)ので,隣接する他の在留資格の方が適合性がある場合があります。今回は詳しく取り上げませんが,隣接する他の在留資格がある場合,どちらで申請するのが正しいか,若しくは有利になるかといった点からも検討していく必要があります。

 

【技人国で外国人を雇用する場合】

 いくつか必要な条件があります。

①日本人と同等以上の報酬であること

 外国人だからという理由で,職場内の同一業種の日本人労働者以下に報酬を設定することは出来ません。職場内に同一業種の日本人労働者がいない場合は,職場内の他の日本人労働者の報酬や業務内容を総合的に勘案して適正かどうかを判断します。職場に賃金規程等があれば疎明資料として申請時に提出し,適正な賃金であることを説明していく必要があります。

 ※上記に加え,実態としては当該外国人が暮らしていける程度の収入がないと,資格外の活動を無断で行うなどの不法就労を招きかねない事から,独立した生計を問題なく立てることが出来る程度であることが求められます。具体的には都市部であれば月収20万円程度,地方であれば16万円程度は最低限必要です。弊所で以前申請を行った例では,収入から家賃等の支出を考慮して生活していくことが可能である旨の疎明資料として想定家計簿を提出しました。

②業務内容と関連のある「学歴」または「実務経験」があること

 以下のいずれかの要件に満たしている必要があります。

 ㋐大学卒業以上(日本でも外国でも可)

 ㋑専門学校卒業以上(日本国内に限る)

 ※いずれの場合も「単に卒業」しているだけでは足らず,業務内容に関連した専攻をしている必要があります。但し,大学卒業者の場合は業務との関連性は幅広くみられるのに対し,専門学校卒業者の場合は関連性が密接であることが求められます。

 ㋒10年以上の実務経験があること

※基準省令の括弧書きに「大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。」と記載があります。つまり,必ずしも実務が10年に足りなくても,学歴の中で関連する科目を専攻した期間があれば加算することが可能です。

「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」の場合は,

3年以上の実務経験で足ります。また,日本の大学を卒業した外国人で,かつ日本語と母国語の通訳,翻訳又は語学指導の場合は実務経験が不要です。これは,日本の大学に通って卒業できる程度の語学力があれば能力も備わっているとみなされるためです。

※実際上,実務経験を疎明するためには,退職した以前の勤務先から在職時の職務内容の証明を受ける必要があり,ない場合は入管から勤務先に電話で確認されることもあり得ます。そのため,実務上は殆ど「学歴」で疎明していくことになります。

③外国人本人の素行に問題がないこと

 過去に日本で賞罰のうち罰を受けている場合(罰金,禁固,懲役等),公租公課のを出している場合,入管の手続きを怠り不法滞在状態になったことがある場合などは厳しくチェックされることになります。これらの内容が軽微である場合は,本人が反省し今後同じ過ちを繰り返さないこと,勤務先がしっかりとサポート,指導することを上申するのが良いでしょう。

④勤務先が安定した経営状態であること

 申請時には基本的に決算書を提出します。赤字であるからと言って即不許可になることはないのですが,経営状態が危うい場合は最悪倒産してしまい,外国人が行き場を失ってしまう恐れがあるため厳しくチェックされます。現時点で経営状態が芳しくない場合や,設立したての会社のように安定した状態でない場合には,今後の事業計画を説明し,安定した経営状態(=当該外国人の雇用を安定して行うことが出来る状態)であるということを説明していく必要があります。

 学歴・実務の要件については,他の就労を目的とする在留資格でも同様に求められます。従って,「学歴・職歴不問」では外国人を原則就労されることは出来ません。外国人本人にも勤務先にも要件がありますので,入念に確認したうえで採用活動を行っていく必要があります。

 

【単純労働との関係】

 上記の通り,技人国の在留資格によって就ける職種自体は非常に幅広いと言えます。一方で,業務内容が専門性に富んでいる必要があり,かつ,当該外国人が専門知識を一定以上有していることが明確であることが要件となっています。冒頭にも記載の通り単純労働は出来ません。ところが,実際の職場では「専門職が単純労働を行う場面」が少なからず存在します。

例えば,「ホテルで勤務する通訳業務を行う技人国外国人が,施設内で専門業務に従事していたところ,客に声をかけられ案内業務(単純労働)を行った」という場面を想定してください。通常お客様は「この外国人の職員は,専門職以外行ってはいけない人だから声をかけるのはやめよう」と考えません。厳密に在留資格の趣旨を遵守するのであれば,「私は案内が出来ないので,案内できるスタッフが来るまで待ってください」と言うべきかもしれませんが,それを言ってしまうと苦情につながってしまいかねません。言い換えれば,勤務先の業務が些細なことで円滑に回らなくなってしまいます。

これはほんの一例にすぎませんが,実際に専門職(日本人の方でも)が勤務する職場でも,専門職が本当の意味で専門職に100%集中できる環境というのは極めてまれです。職場を円滑に回すために,やむを得ず単純労働を「業務の一環」として行う場面もあり得ます。

 当然,程度問題ではありますが,「専ら」単純労働に従事している状態に陥っていなければ「専門業務を行う中で,常識的に発生し得る単純労働を一時的に行う」ことは差し支えないものと解されます。ただし,専門職に従事することを基本として採用し就労させなくてはいけないので,その点は十分に留意して職場環境を整える必要があります。

 

【終わりに】

今回は,外国人材採用について技人国の在留資格を例にご説明してきました。

次回は,資格外活動によるアルバイト以外に単純労働が可能であるという解釈をされる「特定技能」と「技能実習」についてを取り上げていきます。

当事務所では,外国人の在留資格取得・更新・変更の各種ご相談・ご依頼を企業様・個人様から承っております。初回のご相談は無料で承っておりますので,お気軽にご連絡くださいませ。

 

行政書士法人第一事務所

電話番号:011-261-1170

行政書士 原 隆史

行政書士登録番号:第17010426号

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