第一事務所通信 Vol.24━ 「外国人材の採用」における注意点(その4) ━

【はじめに】

前回の記事では,「技術・人文・国際業務」という在留資格についてご紹介しました。前々回の「資格外活動」についてと合わせてみると,「常勤の外国人に対して単純労働での雇用」は出来ないということが言えます。ところが,常勤の外国人に対して単純労働で採用することが出来る在留資格が実はあります。それが「技能実習」と「特定技能」です。

 

【技能実習と特定技能について】

(1)技能実習について

1993年から運用が開始され,途上国に対し日本の「技術を伝える」ための制度。(日本で身に付けた技能を基に,母国で活躍してもらうという国際貢献が制度趣旨。)

(2)特定技能について

2019年から運用が開始され,特定の業界の「人手不足」を補うための制度。(人手不足の解消が制度趣旨)

いずれも,単純労働が可能な在留資格ではありますが,技能実習と特定技能では制度の趣旨が根本的に全く異なります。

これまでは技能実習で実質的に人手不足を補うという,本来の制度趣旨とは異なる視点から利用されることもあり,問題視されていました。そこで人手不足が顕著な業界に限って最長5年で外国人材を受け入れ,単純労働を含む業務に従事させることが出来る特定技能が誕生しました。

 

【技能実習の制度概要】

(1)技能実習の種類

技能の熟練度によって,1号~3号に区分されます。1号が1年,2号と3号が各2年で合計5年間日本に在留することが出来ます。1号は基本的に職種の制限はないのですが,2号3号についてはそれぞれ職種が定められています。また,3号については職種が限られることに加え,受入企業及び監理団体(いずれも後述)の要件が厳しいので,事実上技能実習生は「2号に移行可能な職種」につき「3年間日本に在留」するパターンが最も多いです。制度の立て付け上技能実習の在留資格から他の在留資格に変更することは基本的に想定されていませんが,「技能実習2号を良好に終えた外国人」は「特定技能1号」に切り替えることができます。

職種については厚生労働省ホームページをご参照下さい。「移行可能職種」が2号への移行が可能な(言い換えれば3年間技能実習が行える)職種です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/002.html

(2)技能実習生の採用方法

基本的には当該外国人の母国にある「送り出し機関」から採用することになります(厳密に言えば,自社で採用する方法もありますが,圧倒的に送り出し機関を経由するケースが多いので以下では送り出し機関ルートでの事柄を取り上げます。)。基本的には送り出した外国人の数に応じて報酬が発生する訳ですから,採用されるにふさわしい人材に育成することが彼らのミッションになります。そのため,日本語教育,日本の文化については一通り教育を受けています。

注意しなくてはいけないのは,「送り出し機関」には当たりはずれがあります。日本の法令や文化を理解している機関はよいのですが,悪質な機関は日本企業への過剰な接待,外国人から理由をつけて多額の借金を負わせる,粗悪な人材の送り出しによって入国後問題を起こすなどがリスクとして考えられます。そのため採用する人材の選定を行う前に送り出し機関の選定も行う必要があります。

(3)採用後の対応について

基本的には監理団体が在留資格認定(更新)申請,実習計画の策定,定期面談等を行い,適切な技能実習をサポートを行います。

 

【特定技能の制度概要】

(1)特定技能の種類

1号と2号がありますが,2号はごく一部の職種に限られています。1号は最長5年,2号は無期限で在留資格を更新することが出来ます。

職種については出入国在留管理庁ホームページ『特定技能ガイドブック(PDF版)』の5ページに記載があります。(同10p,11pには技能実習から特定技能への移行が可能な職種についても記載があります。)

https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf

(2)特定技能外国人の採用方法

大きく分けてルートは2つあります。それは,①技能実習2号を良好に終えた技能実習生か②送り出し機関経由で採用するかです。②については,技能実習と差異はありません。恐らくですが,実態としては技能実習でも特定技能でも存在する職種については①での採用が多いのではないかと思います。

(3)採用後の対応について

基本的には登録支援機関が在留資格認定(更新)申請,支援計画の策定,定期面談等を行い,適切な就労を行うためのサポートを行います。

 

【技能実習と特定技能の共通点】

技能実習では「監理団体」,特定技能では「登録支援機関」が国内での生活,在留資格取得・更新等について外部の団体が関与するという点について共通性があります(例外的に自社支援を行うことも可能ではありますが,作業量と専門性を考慮すればほとんどの企業様が行うことが困難であるというのが実情です)。

また,後述しますが,いずれの在留資格も送り出し国(外国人の母国)と日本で二国間協定を締結している国があり,その国の制度に従って適切に対応する必要があります。

 

【技能実習と特定技能の相違点】

前述の通り,制度の趣旨が全く違うので,以下の点が違うと言えます。

①技能実習は入国前に試験を通る必要がない(例外的に介護の場合はN4程度の日本語能力を要する)が,特定技能の場合は当該職種の技能水準及び日本語能力(N4程度)の試験をパスしている必要があります(但し,日本語能力については技能実習を修了している者であれば免除)。

②技能実習1号では「講習及び技能などにかかる業務に従事(非専門性業務)」,2・3号でも非専門性業務に従事する。つまり,非専門的な単純労働を「実習」という観点で行うものです。それに対して,特定技能は単純労働を含めた専門性のある業務に従事することになっています。実際に現場に出ると,どちらも相違がないような場面もあると思いますが,制度の趣旨自体が全く異なるという点は留意しておく必要があります。

技能実習生については,都道府県で定める最低賃金以上であることが求められますが,特定技能の場合は「同じ職場内で同じ業務を行う日本人と同等以上」であることが必要です(これは前回ご説明の「技人国」などと同じ取り扱いです)。

④技能実習では国内での転職(厳密には実習先の変更)を外国人の意思で行うことは出来ませんが,特定技能では転職が制度上は出来ます(但し,転職前の期間も含めて在留期間は最長5年ですから採用時には注意してください。また,制度上可能ではありますが,実際に転職する場合はハードルが高いものですので,特定技能外国人の転職市場がにぎわうことは想定出来ません)。

 

【技能実習・特定技能の二国間協定とは?】

実習生,特定技能外国人の保護,適正で円滑な制度運用を目的として,特定の国とは二国間協定を締結しています。国によっては送り出し機関が指定される,大使館への手続きが必要になるなど異なる条件がありますので確認が必要です。

詳細は以下のホームページをご参照ください。

技能実習について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192642.html

特定技能について(出入国在留管理庁)

https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri05_00021.html

 

【終わりに】

今回は,外国人材採用について技能実習と特定技能についてご説明しました。

制度が複雑で,監理団体や登録支援機関,送り出し機関など他の在留資格に比べて関係する先も多いことから,企業単独で採用することがなかなか難しい制度でもあります。

次回は,就労系の在留資格の中で最も資格取得が難しいと言われる「経営・管理」についてを取り上げていきます。

 

当事務所では,外国人の在留資格取得・更新・変更の各種ご相談・ご依頼を企業様・個人様から承っております。初回のご相談は無料で承っておりますので,お気軽にご連絡くださいませ。

 

行政書士法人第一事務所

電話番号:011-261-1170

行政書士 原 隆史

行政書士登録番号:第17010426号

取次申請者番号:札(行)19-16号

コメント

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です