第一事務所通信 Vol.25━ 「外国人経営者」が日本国内で事業を行うにあたっての注意点━

【はじめに】

前回の記事では,「技能実習」と「特定技能」という在留資格についてご紹介しました。外国人の在留資格関連の記事は今回で最後になりますが,これまでの在留資格とは異なる観点で審査をされる「経営・管理」という在留資格についてご説明します。専門家の中では「経営・管理」は難しい部類の在留資格であると言われていますが,他の在留資格とどう異なるのかという点にも注目しただければと思います。

 

【「経営・管理」ついて】

もともとは「投資・経営」という在留資格でしたが,2014年の法改正で「経営・管理」に改められました。具体的な内容については出入国在留管理庁ホームページ記載の説明を以下に引用します。

 

本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動(この表の法律・会計業務の項の下欄に掲げる資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く。)。
該当例としては,企業等の経営者,管理者など。

 

まず補足をすると,この表の法律・会計業務の項の下欄に掲げる資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く」については,弁護士や司法書士,行政書士,税理士などの業務独占の国家資格者の事務所についてです。例えば,弁護士資格を持っている外国人が日本で法律事務所を開業し経営を行う際は「経営・管理」ではなく「法律・会計業務」に該当します。

 

経営・管理で在留資格が許可される場合,当該外国人の役職は大きく分けて2通りにわかれます。

一つ目は,上記引用において貿易その他の事業の経営」と示されています。貿易はあくまでも例示ですので,何らかの事業の経営を行っていることという事が言えます。簡単に言えば「役員(取締役,監査役など)」が該当します。

二つ目は,当該事業の管理に従事する活動」と示されています。こちらは,いわゆる内部管理を行う管理職に該当します。具体的に言えば工場長や支店長といった役職です。

 

管理職の場合,事業の管理に従事する実務経験が3年以上ないといけません。また,日本人と同等以上の報酬を受けることも要件になります。これは,前々回の「技人国」と同じように求められるものです。企業で雇用されることを前提としているので,共通性があります。

以下の各項では,基本的に外国人が「経営」活動を行うことについて述べていきます。

 

【外国人が経営活動を行う上での審査項目】

(1)会社の規模

法人の種類は株式会社に限らず合同会社等でも問題ありませんが,㋐資本金500万円以上,または㋑常勤職員2名以上(これは日本人又は永住者.永住者の配偶者等,定住者を有する者のいずれか)の雇用が必要です。実態としては,新規で会社を設立する場合は㋐の資本金要件で満たす場合がほとんどです。

(2)事業所の状況

業種によって異なりますが,いわゆる「普通の職場」にはあるであろうオフィス機器が一式揃っていることが求められます。具体的には電話,FAX,コピー機(これらは事業規模にもよりますが,小さい会社さんであれば一体型のもので差し支えありません。),パソコン,デスク等があげられます。

また,各種インフラ(水道,電気,インターネット等)の契約が法人名義でなされているかなども見られます。

そして,事業所は賃貸の場合「法人名義での契約」がなされているか,「法人事務所として利用することの承諾を受けているか」がチェックされ,個別に事業所の賃借を行わない(=自宅で開業する)場合は,執務スペースと居住スペースの分離がしっかりなされているか?という点はよく確認されますので注意が必要です(わかりやすく言われているのは「リビングを通らずに事務所に入ることは可能か?」という観点です)。

実際に自宅を事業所と兼用している場合には入管から細かい照会が入り,利用権原(会社として利用することが認められているかどうか)や図面を提出して間取りがどうなっているか,どのように居住スペースと執務スペースをわけているかを説明したことがあります。

他にも事業所としての体をなしていないバーチャルオフィスや簡易に移動可能な建物(例えば鉄道コンテナなど)を事業所としても許可されません。

(3)資本金の出所

前述の通り,実務上は500万円以上の出資を要するところ,外国人本人が資本金を捻出して出資するケースがほとんどなのですが,出資金をどのように用意したのかは入管が細かくチェックしています。理由としては,実態として外国人本人が出資したものでないのであれば,実際に経営に関与するのかどうかが不明瞭なためです。

(4)事業の継続性

「経営・管理」で最も重要な審査項目です。新規設立の場合は初年度からの黒字が必ずしも見込めない場合もありますが,最終的に黒字になり安定した収益を生み出せる会社に成長していくことを証明しなくてはいけません。事業計画を作るにあたり,甘い見通しで計画を立ててしまうと,実際に数年後在留資格の更新をしようとする際に,計画と実態が異なっていると計画の甘さが指摘され,厳しく審査される恐れがあります。

最近で言えば,新型コロナウイルス感染症の流行など,おおよそ想定できない事態もありますので,必ずしも100%正確な見通しを立てるのは難しいですが,税理士などとも相談して適切な事業計画を立てる必要があります。

また併せて,事業計画における取引先についても具体的な名称等を記載すべきですので,事前の準備は入念に行う必要があります。

これらを纏めた事業計画書を審査の際に提出します。

(5)役員報酬について

経営状態を良く見せるために破格の役員報酬を設定しようとするケースもありますが,少なくとも外国人本人が日本で生活していける程度の報酬を支払う必要があります。何故なら,日本で生活していけいない収入である場合,他にアルバイトをしたりしなくてはならず,経営に専念できる状態ではないためです。活動の本旨である経営活動を行えるような環境にしなくてはいけません。

具体的にいくら以上という決まりはありませんが,大都市であれば20万円程度,地方都市であれば18万円程度の月額報酬は支払う必要があると思います。

 

【経営・管理は何が難しいのか?】

これまでのメールマガジンでは「資格外活動」「技人国」「技能実習」「特定技能」について取り上げてきました。これらの在留資格と外国人が経営者である「経営・管理」では一つ大きな違いがあります。

それは,「第三者が運営(経営)する団体に属することが在留資格の要件になっていない」点です。(※本項前段で述べたように,管理職であれば同じことが言えますが,ここでは取り上げません。)

これまでの在留資格の他にも留学の場合は学校,就労系の資格の場合は勤務先(総称して「所属機関」という言い方もします)が存在していました。そして,入管に提出する「在留資格認定証明書交付申請書」に記載すべき事項は半分前後が所属機関に関する事柄でした。つまり,在留資格の申請においては,外国人本人を審査する側面と所属機関を審査する側面があるのです。

ところが,「経営・管理」の場合は所属機関が自分の経営する会社です。このような場合だと,本人も所属機関もどちらも結局のところ本人を審査することになります。なかなかうまい表現が見つからないのですが,抽象的な言い方をすると「外国人を守ってくれる人がいない」ということが言えます。審査の目が全て本人の活動に集中してしまうので,他の在留資格に比べても厳しく審査されがちです。

実務経験については,経営者としての経験は問われませんが,事業の内容については少なくとも明るい必要があるので,過去の経歴や資格,大学での専攻内容などは良く確認して,有利になりそうなものは資料を添付し全面に押していくべきでしょう。

 

【終わりに】

5回に渡り在留資格のことについて記事を書かせて頂きました。内容としては触り程度の内容にはなってしまいましたが,ごくごく初歩的な部分のみのご説明となってしまいましたが,在留資格について少しでもご理解頂けていれば幸いです。

 

当事務所では,外国人の在留資格取得・更新・変更の各種ご相談・ご依頼を企業様・個人様から承っております。初回のご相談は無料で承っておりますので,お気軽にご連絡くださいませ。

 

行政書士法人第一事務所

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行政書士 原 隆史

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