第一事務所通信vol.27-相続登記をしないと過料?!-

【はじめに】

相続によって不動産の所有権を取得した際に、不動産の名義の書替え(相続登記)を行わずに、一定期間放置すると過料による罰則が科される(相続登記の義務化)という法改正がなされました。

今回は、この相続登記の義務化についてご説明します。

 

 

【相続登記義務化の背景】

平成29年の国交省の調査(地籍調査)によれば、登記簿のみで所有者の所在が不明の土地(いわゆる「所有者不明土地」)が、調査対象(約629,000筆)のうち約22%(約139,000筆)存在しました。

 

そして、上記139,000筆の所有者不明の主な要因は、

・相続登記の未了:約91,000筆(約66%)

・住所変更登記の未了:約46,000筆(約34%)

でした。

 

また、所有者不明土地問題研究会の平成29年12月の最終報告書では、全国の所有者不明土地の面積は約410万haに上ると推計され、九州全体(約378万ha)より広い面積であるとの衝撃的な報告がなされました。

 

財産的な価値が乏しい土地は、相続人はこれを取得しても売却等により利益を得られるわけではないために、名義変更のために積極的に費用や労力をかけずに放置されることがあるものと思われます。

そして従来は、相続によって土地の所有権を所得しても、相続登記をするかどうかは任意で、相続登記を行わなくても、何らペナルティはありませんでした。 

 

所有者不明土地については、管理がなされないことにより近隣土地への悪影響、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず民間取引が阻害される等の弊害が現に発生しています。

さらに、今後の高齢化の進展・死亡者数の増加により、ますます事態が深刻化の恐れがあると考えられています。

 

そこでこのような状況を是正するべく、相続登記の義務化を中心とする不動産登記法の改正が行われたのです。

 

 

【不動産登記法の改正の内容】

改正不動産登記法は、下記のとおり規定しています。

 

・「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。」(改正不動産登記法76条の2 1項)

 

・「(略)第76条の2第1項(略)の規定による申請すべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。」(改正不動産登記法164条1項)

 

これらにより、相続により不動産を取得した相続人は、相続の発生及び所有権の取得を知った日から3年以内に、相続による所有権移転登記(相続登記)を申請する義務を負い、正当な理由なしに、その申請を怠ったときは10万円以下の過料が科されることになりました。

 

 

【相続登記義務化の開始時期】

この不動産登記法の改正は、令和3年(2021)4月28日に公布されました。施行日は、公布後3年以内の政令で定める日から施行されるとされています。

したがって、相続登記の義務化は、令和6年(2024)4月28日までに開始されます。

 

 

【相続登記義務化の経過措置】

注意すべき点ですが、相続登記の義務化は、法改正の施行日後に発生した相続のみならず、法改正施行日以前に発生した相続についても、対象となります。

 

相続登記の義務化は、令和6年4月28日までに開始されますが、それ以前に所有者が死亡したものの相続登記義務開始時に相続登記がされていない不動産についても適用があり、原則として改正法施行日から3年以内に、相続登記を申請する義務が課され、正当な理由がなく相続登記を怠った場合は、10万円以下の過料に処されてしまいます。

 

 

【その他の不動産登記法の改正の内容】

今回の不動産登記法の改正には、相続登記義務化の他、以下のような内容が含まれています。

 

❶相続人申告登記

現在、相続登記を行うには、原則として、相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得し添付する必要があります。

しかし、これは改正不動産登記法により相続登記の申請義務を課された相続人にとって負担が大きいため、相続人が相続登記の申請義務を履行しやすくする観点から、新たな登記が創設されました。それが相続人申告登記です。

相続人申告登記は、相続人が自らが不動産の所有権登記名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本等(だけ)を添付して申出をすると、登記官が職権で、相続人の氏名・住所等を登記簿に記載します。

相続人は、この申出を行うと、相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、過料のペナルティを免れることができます。

 

❷所有不動産記録証明制度 

相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくすることで、相続登記申請にかかる当事者の手続的負担を軽減するために、特定の被相続人が所有権の登記名義人となっている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度(所有不動産記録証明制度)が新設されました。

 

❸死亡情報についての符号の表示制度

相続登記を促進するため、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて、不動産登記に死亡の事実を符号によって表示する制度(死亡情報についての符号の表示制度)が新設されました。

❹住所変更登記の義務化と職権登記制度 

所有権の名義人が住所変更をしたときは、2年以内にその変更登記をすることが義務付けられました。また登記官が他の公的機関から(住基ネット等)から住所変更の情報を入手した時は職権で、変更登記することが出来るようになりました。

 

各制度の施行日は、

❶は、相続登記の義務化と同様、令和6年(2024年)4月28日までの政令で定める日

❷~❹は、令和8年(2026年)4月28日までの政令で定める日

とされています。

 

【おわりに】

今回の相続登記の義務化は、不動産の価値・規模・所在にかかわらず一律に実施されるものであり、一般の方にも非常に大きな影響が及ぶものです。

 

施行期限である令和6年4月28日までは、本メルマガ配信日現在、残すところあと2年半程度です。

 

相続登記義務化がスタートしてから慌てることのないよう、相続登記が済んでいない不動産がある方は、早めに相続登記を行うことをおすすめいたします。

 

また、将来ご自分の相続人が相続登記について困らないようにするには、生前に遺言を作成することも有効と考えます。

 

相続登記や遺言についてご検討中の方は、一度弊所へご相談くださいませ。

 

 

司法書士法人第一事務所

司法書士 田澤 泰明

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